真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第十話 ―アンアローン―


「おい、大丈夫か?」
「え、ええ… 大丈夫ではありませんが、まだ生きてはいますよ。武さんはどうしてここに?」
「あれがここまで案内してくれた」
武が指をさす。
咲夜がその方向を見ると、1枚の形代が宙を漂っていた。
「あれはあたしが式王子を実体化させる時に使う形代…? じゃあ、式王子が武さんをここまで連れて来たんですか」
咲夜は形代を手に取り、ポケットの中にしまった。
「じゃあ咲夜、お前は早くここから逃げろ」
「そういう訳には…!」
「いいから逃げろ! そのままだと、本当にお前死んじまうぞ!!」
「あたしは1人で…!!」
その時。
「<マハラギオン>!!」
「潰れなさい! <グライバ>!!」
武と咲夜のもとに、業火と重力波が降り注ぐ。

ドォオオ…ンッ!!!

「クッ…!? 文句なら後でいくらでも聞いてやるから、そのためにも今は逃げて生き延びるんだ!!」
「でも…!」
「早く!!!」
「…分かりましたよ…… 開扉の実!」
咲夜は扉を出現させ、そこへ向かう。
一瞬、咲夜は武と擦れ違った。
「そこまで言っておいて、死んだら許しませんよ…!」
「安心しろ、俺は死なないさ。約束だ」
そのまま咲夜は扉に入り、扉ごと消え去った。
「さて、と……」
武は扉が消えた事を確認すると、悪魔達に向き直る。
敵はふたり。そしてふたりとも、あのべヒモスを上回るプレッシャーを放っていた。
(こいつら、六副官か……)
外見的な特徴から、武はこのふたりがモロクとリリスであると気付く。
(リリス… 第一副官か。確か優が『第一副官と第二副官は別格』って言ってたよな……)
武は油断なく将門之刀を構え、一定の間合いを保つ。
「フフ……」
リリスが笑みを浮かべる。
次の瞬間、
「――!!!?」
リリスは武の背後に立っていた。
「<ブフダイン>!!」
「ちぃっ!!?」
冷気の渦が武を包む。
武がその渦から脱出すると同時に、巨大な氷柱が造り出される。
脱出が少しでも遅れていたら、武はその氷柱の中に閉じ込められていただろう。
「クス… <ダイヤモンドダスト>!!」
今度はその氷柱が粉々に砕け、極寒の吹雪となって武を襲う。
極小の氷の破片が、武の身体を切り裂いた。
「ぐぁあ…!!?」
さらに、
「<マハラギオン>!!」
モロクの放った火炎により氷の破片が熱せられ、一瞬で超高温の蒸気へと変化した。
「ぐぅっ…!!!?」
武の肌が焼かれ、煙を上げる。
武は後ろへと跳び、何とか蒸気から逃れた。
「フフフ… いいザマね。これじゃあ、『死なない』なんて約束、護れないんじゃない?」
リリスが嗤いながら、武を見る。
「まったく、どうして人間っていう生物はいつもそうなのかしら? 出来もしない事を出来ると思い、下らないユメを見る」
「…出来るか出来ないかなんて、やってみなけりゃ分からないだろ…!」
「それが愚かだというのよ。身の程を知りなさい、人間」
「出来るはずの事をビビって諦めるのはもっと愚かだ…!」
「出来もしない事をやってから後悔するのはさらに愚かよ。まさに今のあなたがそうね。すぐに後悔する事になるわ… たった1人で私とモロクを相手にした事を」
武はそのリリスの言葉に、笑みを浮かべた。
「…何がおかしいのよ?」
「人間は1人じゃなにも出来ない、ってか? バカにすんなよ」
そう言って武は、力強い眼でリリスを見返した。
「確かに俺は今、『1人』でお前等と闘ってる。でもな、『独り』で闘ってる訳じゃねえんだ。心強い仲間と仲魔が… 俺の心を支えてくれてるんだよ」



「これで… 最後!」
つぐみが悪魔の頭を叩き潰す。
それにより、つぐみと武の仲魔達を包囲していた悪魔の群れは、完全に全滅した。
「ふぅ……」
つぐみは1つ溜息をつき、周りを見廻す。
(酷いわね……)
ケルベロス、サリエル、ヴァルキリー… そして、つぐみ。
全員がボロボロだった。満身創痍、という言葉がぴったりだろう。
「あなた達… 大丈夫なの?」
「それはこちらの台詞でもあるのだがな……」
ケルベロスの声にも力がない。
「…じゃあ、私は先に行かせてもらうわ。あなた達はここで休んでて」
そう言ってつぐみは先に進もうとしたが、
「ふざけるな…!」
投げかけられたその言葉が、つぐみの足を止めた。
振り返ると、ヴァルキリーが睨みつけている。
「この程度の傷で休まねばならないほど、私は弱くない…!」
「ちょっとあなた、本気で言ってるの? そのままじゃ、絶対に死――」
「貴様に命令される筋合いなどない… 私に命令していいのは、この世で主殿だけだ……!」
「……あなた……」
その時、つぐみとヴァルキリーの様子を眺めていたサリエルが、突然言った。
「ねぇ、ラヴコメもいいけど……」
「何がラヴコメだ! サリエル、貴様――」
「ちょっと、ヤバそうな感じがしないかい?」
「――!? 何だと…?」
突如、目の前の空間が水面のように揺れた。
「おやおや、随分とボロボロですねェ… クックックッ……」
そして、水中から浮かび上がって来るように、何かがそこに現れる。
「これは… 最悪だな……」
ケルベロスが呟く。
敵襲だった。しかも相手は、凄まじい能力を持つグレーターデーモン。
「魔王ベルフェゴール……!」
便器を玉座とする、六副官の第三副官。
それが、つぐみ達の目の前に立ちはだかっていた。
「ふふ… あなた達の命、ここで頂きますよォ……!」
サリエルは1つ溜息をつき、
「やれやれ、こんなボロボロの状態でベルフェゴールなんかに勝てるのかな…?」
と、弱々しく言う。
「……勝つしかないわ」
つぐみははっきりと、そう答えた。
「武が言ってたでしょう? 『絶対死ぬんじゃないぞ』って……」
その言葉と共に、つぐみはベルフェゴールに向かい駆ける。
「…主から死ぬなと命令されてる以上、我等が死ぬ事は許されぬな」
「そうだね… もう少し、頑張ってみますか」
「フン… 当然だ、こんな所で死んでたまるか……!」
仲魔達もつぐみに続き、ベルフェゴールに向け跳び出した。



「<ドルミナー>!」
モロクが放った魔法が、武を包み込んだ。
「クッ、何だ…?」
武は強烈な睡魔に襲われ、その場に倒れ込む。
「く…そ……?」
そしてそのまま、ゆっくりと目を閉じた。
「ハハハ、これで終わりね! <永眠の誘い>!!」
さらにリリスが魔法を放つ。
眠っている者を永遠の眠りへと引き摺り込む、必殺の魔法。
それで武の命を絶つ事が出来るはずだった。
「…なんてな!」
「――!!?」
武はいきなり目を開き、リリスを斬り付ける。
「クッ、『寝たフリ』…!!?」
「詰めが甘いんだよ!!」
さらに、モロクに不可視の刃を放った。
「ぬぅうう…!!?」
モロクが怯む。
その隙に、武はふたりから距離を取った。
「ぐぅ、人の子がぁ…! <アギダイン>!!!」
モロクが放った火球が、武に迫る。
武はそれを刀で受け流した。
だが。
「何!!?」
「フハハハ!!」
火球の影に隠れ、モロクが武に接近していた。
「死ねぇ!!」
モロクの拳を受け、武の身体が飛ぶ。
さらに、
「<ザンダイン>!!」

ドォォオオ…ンッ……!!!

「ぐぁ…!!?」
リリスが武に、衝撃波を叩き込む。
武は地面に打ち付けられ、呻き声を上げた。
「これで終わりだ、召喚師ィ!!」
モロクが武に迫る。
「ハハハ、私達の勝ちよ!!」
リリスの声が響く。
そしてモロクが放った一撃は、武に絶望をもたらす――

「…へっ、詰めが甘いって言っただろ……」

――はずだった。
武は笑い、刀を鞘に収める。そして、モロクに『何か』を投げつけた。
その『何か』は、モロクの身体を縛り、自由を奪う。

――血写経典!!?

リリスとモロクの顔が驚愕で染まる。
そして、次の瞬間。
「喰らえ!!!!」
武の居合いが、一閃した。

パァア…ン……!!

モロクの首が刎ね飛ばされ、地に落ちる。
数秒後、モロクの首と身体はただのマグネタイトと化した。
「何、なのよ…!」
リリスが呟くように言う。
「どうして、あなたがそれを…!?」
「さっき咲夜と擦れ違った時、渡されたんだ」
「ふざけないで!! 何の力もないあなたが、どうしてそれを使えるのよ!!?」
「ああ、これは使用者の咒力と生命力を喰うらしいな」
「だったら!!」
「生命力は俺の分。そして咒力は、咲夜があらかじめ経典に注ぎ込んでいた分だ」
「な……!!!!」
武はさっきと同じく、力強い眼でリリスを見る。
そして、言った。
「分かったか。これが、『独り』じゃないって事だ」
「――!! 五月蝿い、<マハブフーラ>!!!」
武の頭上に無数の氷柱が造り出され、一斉に降り注ぐ。

ドゴォオ…ンッ!!

「ぐっ…!!?」
武はそれを躱しきれない。
身体が引き裂かれ、血を噴いた。
「……!?」
リリスが怪訝そうな顔をする。
だがそれは、すぐに笑顔へと変わった。
「フフ、あなた… もう限界みたいね」
「…何を言ってる」
「ただでさえ私達との闘いでボロボロになっていたのに、それに加えて経典に生命力を喰われた。普通の人間だったらとっくに死んでるわ」
「くっ……」
「…まぁ、そんな状態でもそうやって意識を保っていられるのは、さすがといったところかしらね」
リリスはそう言い、掌を武へと向ける。
そしてその掌に魔力が集束し、凄まじい冷気が生まれてゆく。
「でも、もうお終いよ。すぐにその大切な、仲間と仲魔のところに送ってあげるわ」
「――!!!? どういう意味だ…!!!?」
「フフ、あいつらはもう死んでるわよ。ベルフェゴールが皆殺しに――」

「残念だけど、それはハズレよ」

声が響いた。
その声はリリスを硬直させ、武の顔に笑顔を浮かばせる。
「つぐみ…!」
「久し振りね、武」
そして、つぐみの後ろには仲魔達と咲夜の姿。
「…ベルフェゴールを斃した……!? ウソでしょ……?」
リリスは自分の見ているものを、信じる事が出来なかった。
全員かなりの深手を負っている。
だが、その瞳は力を失ってはいなかった。
「形勢逆転だな」
武が言った。
「形勢逆転!!? ふざけないで! 半死者がどれだけ集まろうと、この私は――」
「じゃあ、闘るのか?」
「――!!? クッ…!」
武の自身に満ちた瞳が、リリスを捉える。
「退き際をわきまえるのも大切だよ、リリス。6000年前、君達があの反乱を起こした時にも言った事だけどね」
サリエルがリリスに言う。
その顔には、余裕の笑顔が浮かんでいる。
「……分かったわ。ここは退いてあげる」
リリスは刺すような視線を武達に向けた。
「でも覚えておきなさい。次に私と会った時は… そこがあなた達の墓場よ」
異界化が解け始める。
それと共に、リリスの姿も消えていった。



翌日。
武は松葉杖をつきながら、田中研究所付属病院の廊下を歩いていた。
商店街の異界化が解けた後、武、つぐみ、咲夜の3人はこの病院に運ばれ、緊急入院となったのである。
「っと、ここだな」
武はある病室の前で立ち止まった。
ドアをノックし返事が返ってきたのを確認すると、病室に入った。
「具合はどうだ?」
病室の入院患者が武を見る。
その途端、その患者――咲夜は目を丸くし、
「た、武さん!!? 安静にしてなきゃダメじゃないですか!!!」
と、叫んだ。
「ずっとベッドで寝てるってのは退屈なんだよ」
武は傍にあった椅子に腰を降ろす。
「それに、お前に礼を言わなきゃいけないしな」
「礼… ですか?」
「ああ、血写経典の事とか、あのギリギリの状況でつぐみ達を連れて来てくれた事とか」
「そんな… お礼なんていいですよ。前者の事はともかくとしても… 後者の事は、ベルフェゴールを斃しあなたを捜していたつぐみさん達を闘いの場に案内した、ってだけの事ですから」
咲夜はわずかに頬を赤らめながら、言った。
「でもそのおかげで最後のハッタリが出来たんだ。感謝してるよ」
「はは、あれは見事でしたよね」
「半分くらい死んでたからなぁ… リリスがあれにビビって退いてくれなきゃ、間違いなく殺られてたよ」
武はそう言って笑った後、
「で、さっきも訊いたが… 具合はどうなんだ?」
と、言った。
「見ての通りですよ。ピンピンしてます」
「そうか……」
武が口を閉じる。
「…どう考えても、おかしいですよね」
代わりに、咲夜が口を開く。
「昨日あれだけの傷を負ってこの病院に運び込まれたのに、一晩経ったらもうピンピンしてるなんて」
「…やっぱりお前はキュレイ種なのか?」
武は単刀直入に訊いた。
「ええ… あたしがキュレイウイルスに感染したのは今から11年前…… 2023年、1月7日です」
「その日って… 確か、天峰一族が滅ぼされた日……」
咲夜は目を見張った。
「武さん!? 里の事を知ってるんですか!!?」
「ああ、優から聞いた。聞いちゃいけない事だったか?」
咲夜は1つ、溜息をつく。
「別にかまいませんけど… 春香菜も口が軽いですね……」
「かまわないなら訊くぞ。お前がキュレイウイルスに感染した日と里が強襲された日が同じって事は、この2つには関係があるのか?」
少しの間、病室を沈黙が包んだ。
「……聞きたいですか?」
「…言いたくないなら言わなくてもいいが……」
「いえ… 聞いてください。けじめをつけたいですしね」
咲夜はゆっくりと語り始める。
それはある冬の日の、悪夢のような出来事だった。



11>>

あとがきと呼ばれるもの・10
ついに話数が2桁に突入しましたね。
頑張れ、私! クライマックスも近付いてるぞ!!
さて次は、咲夜の過去の話。
久々に、『彼ら』を書く事になりそうです。
ではでは。


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