真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第十三話 ―エントランス―




久隠島へと向かう船の中で、武は咲夜と向かい合っていた。
「久隠島、か……」
「まさか、あこに戻る事になるとは思ってませんでしたよ」
そう言って、咲夜は窓から海の向こうを見る。
「あの、一族の聖域にして滅びの地に……」
武はその様子を見ながら、咲夜に訊いた。
「…天峰一族みたいな異能者の一族ってのは、昔はいっぱいあったのか?」
「ええ、世界中にあったらしいですね。天峰一族と同じく、時代の流れと共に消えていったみたいですけど。まぁ、『葛葉一族』は今でも強い力を持ってるようですが……」
「葛葉一族?」
武がそれについて尋ねようとした時。
「あっ、見えてきましたよ」
結界によって隠されていた島の輪郭が、少しずつ見えてくる。
「あれが… 久隠島です」



断崖絶壁に囲まれた久隠島に一ヶ所だけある海岸。
そこから、武、つぐみ、優春、咲夜の4人が上陸した。
武は深呼吸と背伸びをし、
「んで、これからどうするんだ?」
と、咲夜に訊いた。
「まずは浄土門に向かいましょう。あの門を通らなければ、どこにも行けませんしね」
そう言って歩き出した咲夜に、3人が続く。
そして、それから数分後。
一行の目の前に、巨大な門が現れた。
門の両脇には、2体の金剛力士像――仁王像が立っている。
「これが浄土門ってヤツか」
武は門に近付いて行く。
「あっ! 武さん、不用意に近付いちゃダメです!!」
咲夜がそう叫んだ瞬間。
ギロリと、仁王像が武を睨みつける。
そして、
「我等、聖域の門を守護する者」
「何人たりとも、この浄土門を通る事は許さぬ」
2体同時に、武に襲いかかった。
「うおぉおお!? 何だ、この仁王像!!?」
「こいつらは仁王像なんかじゃありませんよ! 天峰一族がこの門を護るために配置した、本物の仁王です!!」
「それを早く言え!!」
武達は襲いかかる仁王の拳を何とか回避する。
目標を失った拳は地面に突き刺さり、大地を揺らした。
「油断してました…! あたしが島を出ようとした時は、こいつらは第187番部隊に斃されていたんですが… 時間の流れと共にこの島の霊気を吸い上げ、復活してたんですね!!」
その時。
武達の背後の空間が歪み、2体の悪魔が現れる。
「邪神オーカス、邪鬼ヘカトンケイル…!」
咲夜は忌まわしげにその悪魔達の名を呟く。
里が滅ぼされた時に、庵遠が従えていた仲魔だった。
「なるほど。ここが第一関門、という訳ね」
「…さっさと片付けましょう」
優春とつぐみが、自分達を取り囲む4体の悪魔を見ながら言う。
「召喚…!」

『SUMMON:CERBERUS』

『SUMMON:SARIEL』

『SUMMON:VALKYRIE』

武も仲魔を召喚し、臨戦態勢に入った。
「来い…!」
そして、4体の悪魔が一斉に武達に襲いかかる。
この島での、最初の闘いの始まりだった。






「今、君達の目の前にあるものは何だろう?」
庵遠が、リリスとベルゼブブに問いかける。
「6000年前の反乱の時と同じ敗北? それとも――」
「勝利よ。完全なる、私達の勝利」
リリスが答えた。
「そうだ、我等は勝利する。そしてこの地上に楽園を創り、失われた神格を取り戻すのだ」
リリスに続き、ベルゼブブも答える。
庵遠はそれを聞きながら、口元に笑みを浮かべた。
「ふふ、ならば行くといい。どうやらゲストも到着したようだからね」
その言葉と共に、リリスとベルゼブブの姿が消える。
「さて、俺も行こうかな……」
そして庵遠の姿も、消えていった。






「はぁ…!」
武の斬撃が仁王を斬り裂く。
さらにその仁王を仲魔達が追撃し、完全に沈黙させた。
「主、後ろだ!!」
ケルベロスの声。
振り返ると後ろでは、ヘカトンケイルが武に襲いかかろうとしていた。
「クッ!!?」
しかしその時。
「倉成!!」
優春の<銀ナイフ>が一閃し、ヘカトンケイルを真っ二つにする。
「大丈夫?」
「あ、ああ… 助かった」
武は周りを見廻す。
オーカスともう1体の仁王も、つぐみと咲夜により既に斃されていた。
「片付きましたね… さぁ、先に進みますよ」
そう言って咲夜が歩き出す。
武達も、それに続いた。
「それで、これからどこへ行くのだ?」
ケルベロスが咲夜に訊く。
「そうですね… 庵遠は久隠島に来いとは言いましたが、久隠島のどこに来いとは言ってませんでしたから、とりあえず里があった場所に向かおうと思ってます」
咲夜は久隠島の地図の中心辺りを指差し、言った。
「それで、そこに行くには急流にかかる『三途橋(さんずばし)』を渡らなくてはならないんですが、ボロくさいつり橋なので気を付けた方がいいですね。劣化もしてるでしょうし。あ、噂をすれば見えてきましたよ」
崖と崖の間にかかる、橋が見えてくる。
たしかに、ボロボロで今にも落ちそうな橋だった。
「こ、これを渡るのか……」
武のその言葉は、全員の気持ちを代弁したものだった。



無言のまま、揺れる橋を渡る一行。
一歩踏み出すごとに、『ギシ……』という不気味な音が鳴る。
遥か下に、急流が見えた。
「こういう橋って、お約束だと大体落ちるよね」
「綱がブチリと切れたりしてな」
「『ふぁいとぉー! いっぱぁーつ!!』っ感じになったりして」
「…いいよな、空飛んでるお前等」
武は上空のサリエルとヴァルキリーを恨めしげに見る。
サリエルは自分の翼で、ヴァルキリーは天翔ける馬に乗り、空を飛んでいた。
「ほらほらマスター、余所見しない方がいいよ。ちゃんと足元見て」
「下なんか見れるか!!」
武がそう叫んだ時、

バキィ!

突然、そんな音が響く。
武が踏んだ板に、ヒビが入っていた。
「…やっぱり、足元くらい見た方がいいんじゃないのか? 主殿」
「そ、そうだな……」
引き攣った笑みを浮かべながら武は一歩一歩、さっきまで以上に慎重に歩き始めた。
その時。
「おい… あれは何だ?」
空に何かが現れた。
それは、黒い点。
その点は分裂を繰り返すようにして巨大化し、1つの形を成した。
「――!!!? 皆さん、走ってください!!!!」
咲夜が叫ぶ。
言われるまでもなく、全員が走り出した。
だが。
「<ジオダイン>!!」
上空に現れた巨大な蠅の姿の悪魔――第二副官、魔王ベルゼブブが1発の魔法を放つ。
それは、凄まじい破壊力を持つ雷。

ドゴォオオァ…アァアンッ……!!!

それが橋に命中する。板は吹き飛び、綱は焼き切れた。
橋は大きく揺れ、落下する。
「おぉあぁぁああ!!?」
そして、武達も下の急流に向け落ちて行った。
「やっぱり落ちたね…!」
「そんな事言ってる場合か! 行くぞ!!」
サリエルとヴァルキリーが一行の救助へ向かう。
「よいしょっと…!」
サリエルがケルベロスを掴む。
「主殿!!」
ヴァルキリーは武の腕を掴んでいた。
「オン・マユ・ラ・キランデイ・ソワカ!」
咲夜も孔雀明王の飛行咒を使い、急流への落下を逃れる。
だが、つぐみと優春はそのまま川へと落ちて行った。
「優、つぐみ!!」
「武さん、あの2人なら大丈夫ですよ! それよりも……」
咲夜は空を見上げる。
「今は、自分達の心配をした方が良さそうです!!」
ベルゼブブの放った雷が、武達に襲いかかった。



「随分と流されたみたいね……」
何とか川から陸へと上がったつぐみはそう呟いた。
つぐみは周りを見廻す。一緒に川に落ちたはずの、優春を捜すためだった。
だが、優春の姿はない。
先に陸へと上がったのか、もっと下流に流されてしまったのか。
今のつぐみに、それを知るすべはなかった。
「…まぁ、いいわ」
つぐみは近くの森の中へと入って行く。
生き生きとした緑と心地よい風が、つぐみを包んだ。
「なるほど、さすがは霊地ね。島全体に生気が満ちてるわ」
さらに森の奥深くへと進んで行くと、
「………?」
つぐみは、何かを見つけた。
「これは… 骨?」
それは粉々になった人骨だった。
大きさから考えて子供の骨。それが、3人分。
「ここで、何があったの…?」
そう言った瞬間。
「我が汝に与えるは人の宿命、万物の宿命、世界の宿命たる滅びの十字架! <マハザンダイン>!!」

ドガァァアァアア…ァアアンッ……!!!

つぐみの元に、凄まじい衝撃波が降り注ぐ。
つぐみはそれを何とか躱したが、骨は吹き飛ばされて消えた。
「へぇ、不意討ちにもこんなに素早く対応出来るとはね… さすがじゃない、キュレイの申し子」
声が響く。
つぐみは、その声の主の名を呟いた。
「リリス…!」
魔力が渦巻き、土地の生気が枯れてゆく。
夢魔の女王は、ぞっとするような笑みを浮かべた。

「でもあなたはここで終わりよ。言ったでしょう? 次に私と会った時は、そこが墓場だって」




14>>

あとがきと呼ばれるもの・13
今回は短めですね。
さて、物語もようやく佳境に入りました。
次回は、つぐみVSリリス。
ではお楽しみに。


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