真・女神転生SEVENTEEN 作 大根メロン |
久隠島へと向かう船の中で、武は咲夜と向かい合っていた。 「久隠島、か……」 「まさか、あこに戻る事になるとは思ってませんでしたよ」 そう言って、咲夜は窓から海の向こうを見る。 「あの、一族の聖域にして滅びの地に……」 武はその様子を見ながら、咲夜に訊いた。 「…天峰一族みたいな異能者の一族ってのは、昔はいっぱいあったのか?」 「ええ、世界中にあったらしいですね。天峰一族と同じく、時代の流れと共に消えていったみたいですけど。まぁ、『葛葉一族』は今でも強い力を持ってるようですが……」 「葛葉一族?」 武がそれについて尋ねようとした時。 「あっ、見えてきましたよ」 結界によって隠されていた島の輪郭が、少しずつ見えてくる。 「あれが… 久隠島です」 断崖絶壁に囲まれた久隠島に一ヶ所だけある海岸。 そこから、武、つぐみ、優春、咲夜の4人が上陸した。 武は深呼吸と背伸びをし、 「んで、これからどうするんだ?」 と、咲夜に訊いた。 「まずは浄土門に向かいましょう。あの門を通らなければ、どこにも行けませんしね」 そう言って歩き出した咲夜に、3人が続く。 そして、それから数分後。 一行の目の前に、巨大な門が現れた。 門の両脇には、2体の金剛力士像――仁王像が立っている。 「これが浄土門ってヤツか」 武は門に近付いて行く。 「あっ! 武さん、不用意に近付いちゃダメです!!」 咲夜がそう叫んだ瞬間。 ギロリと、仁王像が武を睨みつける。 そして、 「我等、聖域の門を守護する者」 「何人たりとも、この浄土門を通る事は許さぬ」 2体同時に、武に襲いかかった。 「うおぉおお!? 何だ、この仁王像!!?」 「こいつらは仁王像なんかじゃありませんよ! 天峰一族がこの門を護るために配置した、本物の仁王です!!」 「それを早く言え!!」 武達は襲いかかる仁王の拳を何とか回避する。 目標を失った拳は地面に突き刺さり、大地を揺らした。 「油断してました…! あたしが島を出ようとした時は、こいつらは第187番部隊に斃されていたんですが… 時間の流れと共にこの島の霊気を吸い上げ、復活してたんですね!!」 その時。 武達の背後の空間が歪み、2体の悪魔が現れる。 「邪神オーカス、邪鬼ヘカトンケイル…!」 咲夜は忌まわしげにその悪魔達の名を呟く。 里が滅ぼされた時に、庵遠が従えていた仲魔だった。 「なるほど。ここが第一関門、という訳ね」 「…さっさと片付けましょう」 優春とつぐみが、自分達を取り囲む4体の悪魔を見ながら言う。 「召喚…!」 『SUMMON:CERBERUS』 『SUMMON:SARIEL』 『SUMMON:VALKYRIE』 武も仲魔を召喚し、臨戦態勢に入った。 「来い…!」 そして、4体の悪魔が一斉に武達に襲いかかる。 この島での、最初の闘いの始まりだった。 「今、君達の目の前にあるものは何だろう?」 庵遠が、リリスとベルゼブブに問いかける。 「6000年前の反乱の時と同じ敗北? それとも――」 「勝利よ。完全なる、私達の勝利」 リリスが答えた。 「そうだ、我等は勝利する。そしてこの地上に楽園を創り、失われた神格を取り戻すのだ」 リリスに続き、ベルゼブブも答える。 庵遠はそれを聞きながら、口元に笑みを浮かべた。 「ふふ、ならば行くといい。どうやらゲストも到着したようだからね」 その言葉と共に、リリスとベルゼブブの姿が消える。 「さて、俺も行こうかな……」 そして庵遠の姿も、消えていった。 「はぁ…!」 武の斬撃が仁王を斬り裂く。 さらにその仁王を仲魔達が追撃し、完全に沈黙させた。 「主、後ろだ!!」 ケルベロスの声。 振り返ると後ろでは、ヘカトンケイルが武に襲いかかろうとしていた。 「クッ!!?」 しかしその時。 「倉成!!」 優春の<銀ナイフ>が一閃し、ヘカトンケイルを真っ二つにする。 「大丈夫?」 「あ、ああ… 助かった」 武は周りを見廻す。 オーカスともう1体の仁王も、つぐみと咲夜により既に斃されていた。 「片付きましたね… さぁ、先に進みますよ」 そう言って咲夜が歩き出す。 武達も、それに続いた。 「それで、これからどこへ行くのだ?」 ケルベロスが咲夜に訊く。 「そうですね… 庵遠は久隠島に来いとは言いましたが、久隠島のどこに来いとは言ってませんでしたから、とりあえず里があった場所に向かおうと思ってます」 咲夜は久隠島の地図の中心辺りを指差し、言った。 「それで、そこに行くには急流にかかる『三途橋(さんずばし)』を渡らなくてはならないんですが、ボロくさいつり橋なので気を付けた方がいいですね。劣化もしてるでしょうし。あ、噂をすれば見えてきましたよ」 崖と崖の間にかかる、橋が見えてくる。 たしかに、ボロボロで今にも落ちそうな橋だった。 「こ、これを渡るのか……」 武のその言葉は、全員の気持ちを代弁したものだった。 無言のまま、揺れる橋を渡る一行。 一歩踏み出すごとに、『ギシ……』という不気味な音が鳴る。 遥か下に、急流が見えた。 「こういう橋って、お約束だと大体落ちるよね」 「綱がブチリと切れたりしてな」 「『ふぁいとぉー! いっぱぁーつ!!』っ感じになったりして」 「…いいよな、空飛んでるお前等」 武は上空のサリエルとヴァルキリーを恨めしげに見る。 サリエルは自分の翼で、ヴァルキリーは天翔ける馬に乗り、空を飛んでいた。 「ほらほらマスター、余所見しない方がいいよ。ちゃんと足元見て」 「下なんか見れるか!!」 武がそう叫んだ時、 バキィ! 突然、そんな音が響く。 武が踏んだ板に、ヒビが入っていた。 「…やっぱり、足元くらい見た方がいいんじゃないのか? 主殿」 「そ、そうだな……」 引き攣った笑みを浮かべながら武は一歩一歩、さっきまで以上に慎重に歩き始めた。 その時。 「おい… あれは何だ?」 空に何かが現れた。 それは、黒い点。 その点は分裂を繰り返すようにして巨大化し、1つの形を成した。 「――!!!? 皆さん、走ってください!!!!」 咲夜が叫ぶ。 言われるまでもなく、全員が走り出した。 だが。 「<ジオダイン>!!」 上空に現れた巨大な蠅の姿の悪魔――第二副官、魔王ベルゼブブが1発の魔法を放つ。 それは、凄まじい破壊力を持つ雷。 ドゴォオオァ…アァアンッ……!!! それが橋に命中する。板は吹き飛び、綱は焼き切れた。 橋は大きく揺れ、落下する。 「おぉあぁぁああ!!?」 そして、武達も下の急流に向け落ちて行った。 「やっぱり落ちたね…!」 「そんな事言ってる場合か! 行くぞ!!」 サリエルとヴァルキリーが一行の救助へ向かう。 「よいしょっと…!」 サリエルがケルベロスを掴む。 「主殿!!」 ヴァルキリーは武の腕を掴んでいた。 「オン・マユ・ラ・キランデイ・ソワカ!」 咲夜も孔雀明王の飛行咒を使い、急流への落下を逃れる。 だが、つぐみと優春はそのまま川へと落ちて行った。 「優、つぐみ!!」 「武さん、あの2人なら大丈夫ですよ! それよりも……」 咲夜は空を見上げる。 「今は、自分達の心配をした方が良さそうです!!」 ベルゼブブの放った雷が、武達に襲いかかった。 「随分と流されたみたいね……」 何とか川から陸へと上がったつぐみはそう呟いた。 つぐみは周りを見廻す。一緒に川に落ちたはずの、優春を捜すためだった。 だが、優春の姿はない。 先に陸へと上がったのか、もっと下流に流されてしまったのか。 今のつぐみに、それを知るすべはなかった。 「…まぁ、いいわ」 つぐみは近くの森の中へと入って行く。 生き生きとした緑と心地よい風が、つぐみを包んだ。 「なるほど、さすがは霊地ね。島全体に生気が満ちてるわ」 さらに森の奥深くへと進んで行くと、 「………?」 つぐみは、何かを見つけた。 「これは… 骨?」 それは粉々になった人骨だった。 大きさから考えて子供の骨。それが、3人分。 「ここで、何があったの…?」 そう言った瞬間。 「我が汝に与えるは人の宿命、万物の宿命、世界の宿命たる滅びの十字架! <マハザンダイン>!!」 ドガァァアァアア…ァアアンッ……!!! つぐみの元に、凄まじい衝撃波が降り注ぐ。 つぐみはそれを何とか躱したが、骨は吹き飛ばされて消えた。 「へぇ、不意討ちにもこんなに素早く対応出来るとはね… さすがじゃない、キュレイの申し子」 声が響く。 つぐみは、その声の主の名を呟いた。 「リリス…!」 魔力が渦巻き、土地の生気が枯れてゆく。 夢魔の女王は、ぞっとするような笑みを浮かべた。 「でもあなたはここで終わりよ。言ったでしょう? 次に私と会った時は、そこが墓場だって」 |
あとがきと呼ばれるもの・13 今回は短めですね。 さて、物語もようやく佳境に入りました。 次回は、つぐみVSリリス。 ではお楽しみに。 |
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