真・女神転生SEVENTEEN 作 大根メロン |
「…これは酷いわね……」 優春は無数の崩れた家と人骨を見ながら、そう呟いた。 ここは、久隠島の中心点――かつては、天峰一族の里だった場所。 その中を、優春は進んで行く。 「咲夜はここに来ようとしてたみたいだけど… どうやら私が一番乗り、か」 島の何処かから、爆発にも似た音が聞こえた。武達やつぐみが敵と闘っているのだろう。 優春は敵と遭遇しなかった。だから、誰よりも早くここに辿り着いた。 だがそれは、ここに誘い込まれただけの事だった。 「出て来たら? いるのは分かってるわよ」 物陰から、1人の青年が現れる。 第187番部隊のデヴィルサマナー――百々凪庵遠。 「ふふ、待ってたよ。春香菜」 「それは御苦労な事ね」 風が、2人の間を吹き抜ける。 「この時をずっと待ってたんだ。ライプリヒを潰し俺達を国際手配した君に、復讐出来る時を」 「…そのためにこんな大きな神災(デヴィルハザード)を起こし、私を誘い出した」 「ふふ、大きい事件じゃないと君は出て来ないからね」 「あなたの目的は最初から私だったのね?」 「そうだよ。そのために六副官を遣った。悪魔の楽園を創るため、という大義名文でね」 庵遠の右手の爪が、悪魔の爪へと変じる。 優春も無言で、白衣から<銀ナイフ>を取り出した。 「さあ… 始めようか」 「<マハジオンガ>!!」 ドゴォオオォ…ンッ……!!! 空気を裂き地を砕くベルゼブブの雷撃が、武達を襲う。 「やれ、ケルベロス!!」 「<ファイアブレス>!!」 武の命を受け、ケルベロスがベルゼブブに炎の息を放つ。 だがベルゼブブはそれをものともせず、再び雷撃を放った。 「<雷の洗礼>!!」 ゴォオオォォ…ンッ!!! 「くそっ…!」 武はそれを何とか躱し、咲夜を見る。 「こいつ、弱点とかないのか!!?」 「まったくありませんよ!」 咲夜も咒術による攻撃を行っているが、ほとんど効果を見せていない。 「そもそもベルゼブブは、ルシファーに次ぐ実力を持ってるといわれているんです! 弱点なんかあるはずがないんですよ!!」 「じゃあどうするんだ!?」 「真正面から闘って、討ち斃すしかありません!!」 「厳しいな… サリエル、ヴァルキリー!!」 その言葉と同時に上空のサリエルとヴァルキリーが、それぞれ大鎌と剣でベルゼブブを斬りつける。 だがベルゼブブの皮膚は、まるで鎧のように斬撃を弾き返した。 「虫けらが…! <マハジオンガ>!!!」 ベルゼブブの身体から雷が迸り、サリエルとヴァルキリーを貫く。 「うっ……!!?」 「ぐぁ……!!?」 その一撃によりふたりは浮力を失い、地面に落下した。 「お、おい! 大丈夫か!!?」 「痛たた… 結構効いたね」 「くそっ、蠅の分際で私を虫けら呼ばわりするとは…!」 ケルベロスが回復魔法でふたりを治療する。 だがその間も、次々と雷撃が武達に降り注いだ。 「クッ…! このままじゃ追い詰められるだけです!! 皆さん、ここは1度退きましょう!!」 咲夜は開扉の実を使い、扉を出現させる。 まずは咲夜が跳び込み、それに続いて仲魔達が跳び込む。 「逃がさんぞ!!」 ベルゼブブが扉に雷撃を放つ。 「はぁ……!」 武はその雷撃を刀で吹き飛ばし、そのまま扉に跳び込んだ。 「それで、ここは島のどこらへんなんだ?」 武は咲夜に訊いた。 周りを見廻す。幸いにも、ベルゼブブの姿は見えなかった。 「さっき闘ってた場所のちょうど反対側ですね」 「じゃあ、ベルゼブブはどれくらいの時間でここに来れる?」 「多分、2,3分もあれば来るでしょう。でも、あたし達の姿は隠形(おんぎょう)の法で見えなくしてますから、そう簡単には発見されませんよ」 「そうか……」 武はその場に座り込む。 「しっかし、あのベルゼブブって悪魔… ホントに強いな。まったく歯が立たなかったぞ」 「…ベルゼブブは怨みが深いからね」 武の言葉に、サリエルが答えた。 「怨みが深い? どういう意味だよ?」 「ベルゼブブはカナン――古代パレスチナで信仰された豊穣神だったんだよ」 「豊穣神? あのデカ蠅がか?」 「サリエルさんが言ってる事は事実ですよ」 咲夜が口を挟んだ。 「カナンでは、魔神『バール』という神が信仰されていました。人々は敬意を込めて『バール・ゼブル(天の館の主)』と呼んでいたそうです」 「バール・ゼブル……」 「しかし、一神教は唯一神以外の神を認めません。それで、唯一神の信徒達はバール・ゼブルをベルゼブブ(蠅の王)と呼び、貶めました」 「そ、それは酷い話だな……」 「一神教の悪魔は、ほとんどが他の神話や宗教の神を貶める事により生まれた存在なんですよ。ヴァルキリーさんにも、心当たりがあるでしょう?」 「…ああ。北欧神の中にも、一神教によって貶められた神がいたな」 ヴァルキリーが忌まわしげに言う。さらに、 「…唯一神の下僕であるボクにとっては、ちょっと耳が痛い話だね…… とにかく、それ故にベルゼブブは怨みが深い。そしてその怨みを力へと変えるのさ。数千年分の怨みを、ね」 「失った神格への執着。それが、天の旧神――ベルゼブブの強さの根源なんです」 サリエルと咲夜が続けた。 「…執着、か……」 武が呟く。 そして、その場を沈黙が包んだ。 だが、ただ黙っていた訳ではない。圧倒的な力の差をどうやって埋めるか、それぞれ思案していた。 その時。 「来るぞ…!」 ケルベロスの声と同時に、巨大な影が武達を包む。 「皆さん、出来るだけ気配を消してください……」 ベルゼブブは上空を旋廻しながら、武達を捜している。 その時、サリエルが口を開いた。 「ねぇ、こんな作戦はどうかな」 「…なるほどな。それなら、いけるかも知れない」 武はサリエルの提案に納得し、頷く。 「皆も、それでかまわないか?」 全員が頷いた。 「そうと決まれば実行あるのみです。いいですか、チャンスは1度だけですよ…!」 そう言って咲夜は、 「いきます!!」 隠形の法を解いた。 そしてサリエルとヴァルキリーが、ベルゼブブに向かって跳び出す。 ベルゼブブの眼が、二者を捉えた。 「馬鹿め、殺されに来たか!! <マハラギオン>!!」 ふたりはベルゼブブが放った炎を躱す。 そして。 「いくよ! <ラクンダ>!!」 「覚悟しろ…! <タルカジャ>!!」 サリエルの魔法がベルゼブブの防御力を下げ、さらにヴァルキリーの魔法が自分達の攻撃力を上げる。 「ヌゥ…! <裁きの雷>!!」 ドゴォオオォ…ンッ……!!! サリエルとヴァルキリーを、ベルゼブブの黒い雷が打つ。 しかしその隙に、ケルベロスに乗った武と、咲夜がベルゼブブに向け跳ぶ。 咲夜は剣印を結び、崇徳上皇の禁咒を唱え始めた。 「南無崇徳上皇、南無五部大乗経……」 ケルベロスが大きくジャンプする。さらにその背から、武が跳んだ。 そして、ベルゼブブの頭に着地した武は、 「はぁあぁぁあああ!!!!」 将門之刀に渾身の力を込め、ベルゼブブの額に突き刺した。 「三悪道に抛籠、其力を以、日本国の大魔縁となり、皇を取て民とし、民を皇となさん……」 「ぐぅおおぉおお!!!?」 サリエルとヴァルキリーの魔法の効果、そして将門之刀の力によってベルゼブブの鉄壁の皮膚が破られた。 武はベルゼブブの額から刀を抜き、そのまま飛び降りる。それをケルベロスが受け止めた。 「ゆ、許さぬぞぉお……!」 ベルゼブブの身体から、雷が迸った。 「人の福をみては禍とし、世の治まるをみては乱を発さしむ……」 「我に仇なす愚か者共よ! 神罰の閃光により地獄へと堕ちろ…!! <マハジオダイン>!!!」 視界を埋め尽くす光と共に、凄まじい雷撃がケルベロスに乗った武と、咲夜を襲う。 武を乗せたケルベロスに、その雷撃を躱すだけのスピードは出せない。そして咒に集中している咲夜も、それを躱す事は出来なかった。 雷撃が命中するかと思われた、その瞬間。 サリエルとヴァルキリーが、雷撃の前に立ち塞がった。 ドゴァアァオオォオ…ォオンッ……!!!! ふたりの身体が吹き飛ぶ。 「咲夜ちゃん、今だ!!!!」 「粉々に吹っ飛ばしてやれ!!!!」 咲夜はそれを聞き頷くと、剣印をベルゼブブの額へと向けた。 「臨める兵、闘う者、皆陣烈れて、前に在り!!!」 咲夜の咒力により喚び出された莫大な妖力が、ベルゼブブに向け放たれる。 そしてそれは、ベルゼブブの額の一点――将門之刀によって皮膚を破られた部分を、撃ち抜いた。 「ぐぁあああぁぁああああ!!!?」 ベルゼブブの身体が内側から崩壊し、崩れてゆく。 「いくら執着しても、失ったものは返って来ないんですよ――……」 そしてベルゼブブの身体は大量のマグネタイトと化し、消えていった。 「サリエル!! ヴァルキリー!!」 武が、地に伏しているサリエルとヴァルキリーに駆け寄る。 「おい、お前等! 大丈夫か!!?」 「ちょっと大丈夫じゃないっぽいね……」 「…まともに喰らったからな。間違いなく致命傷だ……」 ふたりが答える。その声には、もう力がなかった。 「<ディアラハン>! <サマリカーム>!!」 ケルベロスがふたりに回復魔法を施すが、まったく効果がない。 「…無駄だよ。今のボク達には、回復魔法に応える力さえ残ってないんだ……」 「黙ってろ!!」 「マスター……」 ふたりの身体から、少しずつ力が失われてゆく。 「ヴァルキリー、君はここで果ててもいいのかい?」 「覚悟はしていたさ。人間を愛せば悲運を辿るのが、我等ヴァルキリーズの宿命だからな」 そう言って、ヴァルキリーは笑みを浮かべる。 「お前等……」 「そんな顔しないでよ。それに、悪魔にとって『死』というのは絶対的なものではないんだ。悪魔は死んでも、魔界の瘴気から蘇るからね」 「またいつか会えるさ。なにしろ主殿は、これから悪魔にも匹敵するような永い時間を生きるのだからな」 ヴァルキリーは武の手を握る。 「貴方の道に、幸多からん事を」 その言葉と共に、ヴァルキリーは消えていった。 「マスターの仲魔をやっていたこの数日間、なかなか楽しかったよ。でも、それもそろそろ終わりみたいかな」 サリエルは武を見る。 「マスター、死の運命に屈しちゃダメだよ。また何時か、何処かで会おうね」 そしてサリエルも、この世界から去っていった。 静寂が、辺りを包む。 「……武さん」 静かに、咲夜が武に声をかける。 武は、一言だけ呟いた。 「行こう――……」 |
あとがきと呼ばれるもの・15 『VSベルゼブブ』終了。 残るは『VS庵遠』だけになりました。 次回は、武達の最後の闘いです。 ではまた。 |
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