真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第十六話 ―ジャッジメント―


「ふふ……」
庵遠は優春の<銀ナイフ>による攻撃を爪で弾き、すかさず蹴りを打ち込む。
「くっ……!?」
「…確かに回復・再生能力を無効化する銀の力なら、キュレイ種である俺にも致命傷を負わせる事が出来るかも知れない――」
爪の斬撃が、優春を襲う。
「でもそれは、攻撃が当たればの話だけどね。当たらなければ痛くも痒くもない」
優春は庵遠の斬撃を紙一重で躱してゆく。
地面や木々に、巨大な爪痕が刻み込まれた。
「そして、俺の戦闘技能は君よりずっと上。君の攻撃を躱すくらい簡単だよ」
「…さすがは第187番部隊の諜報暗殺担当ね。他の3人と違って、闘い方がスマートだわ」
「あの3人は破壊力重視だからね。もう少し、俺を見習って欲しいだけど……」
「無理でしょうね。特に文華は」
その言葉と共に、優春は爪を蹴り上げる。
そして、ガラ空きの庵遠の身体に銀の斬撃を放った。
「甘いよ」
しかし庵遠は優春の斬撃より速く後ろへ跳び、それを回避する。
さらに、爪を延長させ優春を斬り付けた。
合金繊維が編み込んであるはずの白衣が裂け、血が噴き出す。
「くぁ……!!?」
「…本当なら君への復讐を果たした後に俺が六副官を皆殺しにして、『悪魔の楽園を創る』なんていう下らない目的を潰す予定だったんだけどね……」
「へぇ… あなたでも核攻撃は怖いのね」
「だから、あの3人と一緒にしないでよ」
庵遠は苦笑する。
「君によってライプリヒが潰され、俺達が国際手配された時は本当に大変だったよ。敵を斃したり、文華達の暴走を止めたりね」
「でもあなただって、ロンドンで大きな事件を起こしたじゃない。あれは暴走じゃないの?」
「最近、文華達に感化されてきてるんだよ。何とかしないとまずいね」
庵遠はそう言って、優春に斬撃を放った。
「うっ……!?」
「あぁ、あと文華が言ってたよ。『私から借りた34000円、早く返してください〜』って」
「……あれはもう時効。そう伝えておいて」
「俺から借りた17000円は?」
「それも時効」
「相変わらず横暴だね……」
爪が、優春の身体を斬り裂く。
「くぅあ……!!?」
「さて、そろそろ終わりにしよう。覚悟はいいかい?」
庵遠は優春に爪を向ける。
だがその時。
「優!!」
「春香菜!!」
斬撃と銃撃が、庵遠を襲った。
庵遠は爪でそれを防ぎ、
「……! 思ったより早かったね」
現れた2人の人物を見る。
それは、武と咲夜。
「ケルベロス!!」
「式王子!!」
2人が命ずると同時に、ケルベロスと式王子が背後から庵遠を奇襲する。
「<ファイアブレス>!!」
「……<メギド>……」

ドォオオォ…ォオオンッ!!

庵遠の姿が光に包まれた。
「優、無事か!?」
「春香菜、生きてますか!?」
その隙に、2人は優春に駆け寄る。
「どうにかね……」
「じゃあ、ここで休んでてください。庵遠はあたし達が何とかしますから」
「ええ、任せたわ……」
そう言って、優春は眼を閉じた。ケルベロスが優春の治療を始める。
咲夜は優春から視線を移した。そこには、まったく無傷の庵遠の姿。
「…武さん、あなたは春香菜を護ってください。絶対に庵遠と闘ってはいけませんよ」
「ああ、分かってる」
「じゃあ、いきます」
咲夜は庵遠に向け、跳ぶ。
そのままドラグーンを、庵遠に向けた。

ドオォ…ン!! ドオォ…ン!!

銃弾が放たれる。
庵遠はそれを爪で弾きながら、
「ちょっと予定が狂ったけど… そう大きな問題ではないね」
そう言って、CONPを操作した。

『SUMMON:SIVA』

召喚されたのは、4本の腕を持ち虎の皮を纏い、首に数珠と蛇を巻き付けた悪魔。
「――!!? こんな仲魔まで従えていたんですか!!?」
破壊神『シヴァ』。
ヒンドゥー教三大神のひとりである、額に第三の眼を持つ破壊と創造の神。
「シヴァ、お前は春香菜を殺せ」
「御意」
次の瞬間、シヴァは眼にも留まらぬスピードで優春との間合いを詰める。
そして、その手に持つ三叉槍――神槍ピナーカを、意識を失っている優春に振り下ろした。
「させるか!!」
武が将門之刀で、ピナーカを受け止める。
「…退け、人の子よ」
「ふざけるな!!」
「愚かな… <ジオダイン>」

ドゴォオオァ…アァアンッ……!!!

雷撃が槍と刀を伝わり、武を貫く。
「ぐぅう……!!」
だが武はそれに耐え、ピナーカを弾き飛ばした。
「ヌゥ…!? あの刀が魔法の威力を軽減させたのか?」
シヴァは一端、武との間合いを取る。
庵遠がその様子を見ながら、言った。
「シヴァ、倉成武君に構うな! 春香菜に集中するんだ!!」
「あなたはあたしに集中した方がいいですよ!!」
咲夜が気弾を放つ。
庵遠はそれを受け流すと、
「…そうだね。じゃあ、まずは君から殺してあげるよ」

『SUMMON:SET』

さらに仲魔を召喚した。
それは、赤い瞳と髪を持つ巨大な獣。
「砂漠の悪神――邪神『セト』よ、我が敵を討て……!」
「ハァァアア……!」
庵遠の命を受け、セトが咲夜に襲いかかる。
「クッ……!?」
咲夜はセトに銃撃を撃ち込むが、セトの身体はそれを弾き飛ばした。
「無駄だァ! <毒ガスブレス>ゥウ!!」
猛毒の吐息が、咲夜の視界を包む。
「……? 何のつもりです、キュレイ種に毒ガスなんて効果ありませんよ。せいぜい眼暗ましくらいにしか――」
「そう、眼暗ましなんだよ」
「――!!?」
庵遠の爪が咲夜を襲う。
しかし、それと同時に咲夜は刀印を結び、咒力を込め庵遠の身体に突き刺した。
「くぅあ……!!?」
「ぐっ……!!?」
2人の身体が血を噴く。
「これは… 11年前とは比べ物にならない力だね」
「…当然ですよ。この11年、あたしはあなた達を殺す事だけを考えて生きてきたんですから」
「へぇ……」
「一門の仇、討たせてもらいます」



「ケルベロス! お前は優を護りながら、俺のサポートをしてくれ!!」
「御意!」
武はシヴァとの間合いを詰め、斬撃を放つ。
だがシヴァはそれをピナーカで受け止め、さらにその柄で武の身体を打った。
「ぐぉあ…!!?」
「敗北を受け入れろ、人の子よ」
「うるさい…! この戦いだけは、絶対に敗けられないんだ!!」
「どんなに勝利を願おうと弱き者は敗北するだけだ… <ジオダイン>」

ドゴォオオァ…アァアンッ……!!!

落雷が武に命中する。
さらに、
「<デスバウンド>!」
ピナーカの斬撃が、武の身体を斬り裂いた。
「主…! <サマリカーム>!!」
ケルベロスの回復魔法が武の身体を細胞レヴェルで修復し、傷を塞いでゆく。
「ぐはっ…! 一瞬、川が見えたぞ……」
「そのまま渡ってしまえば楽になれたものを……」
シヴァがピナーカを武に向けた。
「我に仇なす愚か者共よ。神罰の閃光により地獄へと堕ちろ… <マハジオダイン>!」

ドゴァアァオオォオ…ォオンッ……!!!!

「ぐぉおお……!!?」
武は刀でその魔法を受け止める。
だが完全には防ぎ切れず、雷撃が武の身体を焼いた。
さらに、
「万物よ、無へと還れ… <メギドラオン>――!」
シヴァの第三の眼が開かれ、凄まじい光が放たれる。
「くそっ…!!?」
とっさに武は将門之刀の霊気を展開し、シールドを作り出した。

ドゴォォオオォオオオッ!!!!

超高熱が辺りを包み、草木を焼き岩を融解させる。
そして刀のシールドも、その圧倒的な力によって破壊された。
「ぐぅ……!」
「ほう… 我が神眼の光を防ぐとは……」
シヴァが感心したように、武へと語りかける。
「だが、次を防ぐ事は出来まい」
その通りだった。今の武に、もう一度シールドを展開する力は残されていない。
「終わりだ……」
シヴァが再び第三の眼を開こうとした、その時。
「――!!? ぐおぉぉおおお!!!?」
第三の眼に、<銀ナイフ>が突き刺さった。
「――優!!?」
武が振り返ると、そこには笑みを浮かべた優春が立っている。
「シヴァ怯んだわ! 今よ、倉成!!」
「――! やれ、ケルベロス!!!」
「グォォオオオ……!!!」
ケルベロスが咆哮する。それと同時に、身体が変化を始めた。
両肩の肉が盛り上がり、形を変えてゆく。
そして現れたのは、頭。
ケルベロスは3つの頭を持つ、本来の姿へと変貌を遂げた。
「<ファイアブレス>!!!!」

ドゴォォオオオオ…ンッ……!!!!

「がぁぁああ……!!?」
3つの口から吐き出された炎の息が、シヴァの身体を焼く。
さらに武が跳び、居合いを放つ。
シヴァはそれをピナーカで受け止めようとしたが、
「無駄だっ!!!」
その斬撃は、ピナーカごとシヴァの身体を斬断した。
「ぐぅ…おおぉぉおおおぉ……!!!」
シヴァが声を上げる。
「ク、クク…… 見事だ、人の子達よ… やはり人とは、こうでなくてはならぬな……」
そして最後にそう語り、突然姿を消した。
武はしばらく状況が理解出来ず、
「…勝ったのか?」
と、呟いた。
「ああ、自ら魔界へと帰還したようだ。退いてくれたのだろう」
「そうか……」
ケルベロスの言葉によって、武の緊張が解ける。
「それにしても… 優、さっきはありがとな。ホントに助かった」
「ふふ、お礼を言われるほどの事でもないけどね」
優春は<銀ナイフ>を拾いながら答えた。
「それより、早く咲夜の所に行った方がいいわ。私は力不足だし、倉成は庵遠と闘えないけど… それでも、出来る事はあるはずよ」
「そうだな… よし」
武がケルベロスの背に乗る。優春もそれに続いた。
「ケルベロス、咲夜と庵遠の匂いを追ってくれ」



「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行、臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!!」
咲夜は素早く九字を2回切る。

ダァアアァア…ンッ……!!!

「キィィィイイイイイイ!!!?」
それをまともに受けたセトの身体の一部が崩壊し、耳障りな絶叫が響いた。
咲夜はセトから庵遠へと、視線を移す。
「まったく、最初から狙いは春香菜だったとは… 騙されましたよ」
「ふふ、春香菜にも言ったけど… 復讐を果たしたら六副官を皆殺しにして、核攻撃の前に俺が事件を終結させるつもりだったんだけどね」
「はぁ!?」
咲夜が素っ頓狂な声を上げる。
「『六副官を皆殺し』? いくらあなたでも、そんな事出来るはずが……」
「ふふ、出来るんだよ。俺の内に秘められた、『禍々しき者』を解き放てば、ね」
「禍々しき者……?」
「さぁ、話は終わりだよ」
庵遠の爪から、真空波の斬撃が放たれる。
「くぅっ……!!?」
「はっきり言うけど、君に俺は斃せないよ。心・技・体、全てにおいて俺は君を上廻っているからね」
「あなたとあたしでは、背負うものが違います!!」
「俺にだって、少しくらいは背負うものもあるさ。俺は悪魔の父を持つが故に、母の腹を喰い破ってこの世に生を受けた。その母殺しは俺の原罪だ。永遠に背負わなければならない業――カルマだよ」
庵遠は咲夜の術を破り、気弾や銃撃を弾きながら、咲夜との間合いを詰める。
そして、
「眠れ……」
悪魔の爪で、咲夜の心臓を貫いた。
だが。
「――!!?」
咲夜の身体が突如、1枚の形代へと変じる。
「これは… 身代わりの式神?」
その時、庵遠は一瞬だけ隙を見せた。
「油断しましたね!!」
咲夜の投じた数本の飛針が、庵遠を襲う。
庵遠はそれを躱したが、その飛針は庵遠の影に突き刺さった。
「影縫(かげぬい)です!!」
影が縫い止められる事により、庵遠自身も拘束され動きが封じられる。
そして、咲夜は庵遠の左側――右手の爪による攻撃が出来ない場所に廻り込み、
「その首、獲った!!」
最後の攻撃を仕掛けた。
「でも… 甘いね」
庵遠の左手に魔力が集中し、左手の爪が悪魔の爪に変化する。
「え……?」
そしてその爪は、向かって来た咲夜の身体を貫いた。
「……な…んでっ……!!!?」
「陳腐だけど、こう言わせて貰おうかな。『俺に左を使わせたのは、君が初めてだよ』」
咲夜は身体から血を噴きながらも、何とかその場に立ち続ける。
「ふふ、とっさに急所から外したみたいだね… でも、これはどうかな?」
庵遠は影縫を破り、右と左の悪魔の爪――計10本の爪を伸ばし、地面に突き刺す。
「……? 何のつもりですか?」
「すぐに分かるよ」
次の瞬間。
「――!!!?」
地面から10本の爪が飛び出し、咲夜の身体を貫く。
「ああぁぁあああ!!!?」
そして爪は再び地中へと戻り、姿を隠した。
「くぅあぁ…!」
咲夜はどうにかその攻撃から逃れようとするが、地中の爪の動きを読むのは不可能だった。
再び地面から爪が飛び出し、咲夜の身体を貫いた。
「…あっ…ぁああっ……!!?」
「臓器、血管、神経… 全てに無視出来ないダメージを負ったね」
咲夜の口から、血が溢れた。
「くぅは……!」
「さぁ、セトのエサにしてあげるよ」
「キィヤァァアアア……!」
咲夜の背後から、セトが忍び寄る。
そして、セトが咲夜が襲いかかろうとした、その時。
「ギ、ギィィイアゥウウウ!!?」
将門之刀と<銀ナイフ>の斬撃が、セトの身体を斬り裂いた。
「だ、誰だァア!? 俺様の身体をキズモノにしやがるのはァァアアア!!?」
セトが自分を攻撃した者を見る。
そこには、ケルベロスに乗った武と優春の姿。
「<サマリカーム>!!」
ケルベロスの回復魔法が、咲夜を治療する。
出血が止まり、傷が残らず消え去った。
「は、春香菜に武さん!? どうして来たんですか!!?」
「かわいい部下が殺されかかってるのに、自分だけ何もしない訳にはいかないわよ」
「見捨てる事も出来ないしな」
「あたしの心配より自分の心配をしてくださいよ! 庵遠は春香菜を狙ってるんですし、武さんだって庵遠と闘えば――」
「大地よォ! 唸りを上げ、我が前に立つ愚者達を飲み込めェエ!! <マハマグダイン>!!!」

ドゴォォオオオオンッ…!!!

セトの魔力により土や石が巨大な岩石へと変化し、武達に降り注ぐ。
それを躱した武達に、庵遠が言った。
「ふふ、春香菜。部下を思ってここまで来たのは、なかなか涙を誘うけど… 賢明な行動とは言えないね」
そして、優春に庵遠の爪が襲いかかる。
「『あなたはあたしに集中した方がいい』って、言ったでしょう!!?」
咲夜はそれを叩き落とし、優春を護った。
「さて、続きを始めましょうか。春香菜達の登場はちょっと予測外の事でしたが、おかげで今のあたしはケルベロスさんのサポートが受けられます。さっきみたいに、簡単にはやられませんよ」
「…ケルベロス、ね……」
庵遠が視線を移す。
セトを追い詰める、武と優春の姿が見えた。
「なら、手っ取り早い方法でいかせてもらおうか」
庵遠が、跳ぶ。
一瞬後、庵遠は武の背後に着地していた。
「なっ!!!?」
「悪いけど、セトを殺させる訳にはいかないんだよ」
武に爪が向けられる。
「それに君を殺せば、君だけでなくケルベロスも倒せる。君との契約が強制破棄されて、魔界へ送還されるからね。一石三鳥だよ」
武と庵遠が、刀と爪で斬り結ぶ。
「倉成っ!!」
「主!!」
「分かっている!!」
武は優春とケルベロスの声に答えながら、何とかその猛攻から逃れようとする。
武の脳裏には、あの言葉がはっきりと蘇っていた。

『あなたは百々凪庵遠と闘わない方がいいわ。闘ったら間違いなく… 死ぬわよ』

(くそっ、まずい……!!)
庵遠の斬撃を捌き切れず、武の身体に傷が増えてゆく。
「武さん!」
優春とケルベロスに続き、咲夜も庵遠を止めようとするが、
「俺様をシカトしてんじゃねエェェエエ!!!」
セトがそれを妨害する。
さらに優春とケルベロスも、セトによって道を塞がれた。
「ぐあっ……!?」
武の身体が庵遠によって吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。
「主!!」
「倉成ぃ!!」
「武さん!!」
叫び声が響く。
だがそれも虚しく、
「トドメだよ」
あたかも天峰の里長の命を奪った時のように、庵遠の爪が武の心臓に放たれた。
それは絶望だった。どうしようもない最悪の結末。全員の心に、その結末が描かれてゆく。
倉成武は死の運命から逃れられない。それが、絶対の未来だった。
そして、その結末が現実のものになろうとした、その時。
「武!」

パキィィイイイ…ンッ!!!!

庵遠の爪が、粉々に砕け散った。



「つぐみ……?」
武と庵遠の間に、つぐみが立ち塞がる。
「武、大丈夫?」
悪魔の爪が武の心臓に突き刺さろうとした、あの瞬間。
つぐみの一撃が悪魔の爪を打ち砕き、武の命を救った。
「ああ、なんとかな……」
「そう… よかった」
つぐみは武にそう言った後、庵遠とセトに眼を移す。
「クァゥウ……」
セトが数歩、後退りする。
「…音速を超える俺の爪を、一瞬で粉々に打ち砕いてしまうとはね……」
つぐみと庵遠の眼が合う。
その瞬間、つぐみが跳んだ。
つぐみは左足で、庵遠に蹴りを打ち込む。
庵遠は右腕でそれを受け止めたが、
「はぁっ…!」
つぐみは庵遠に当てた左足だけで全体重を支え、右足を浮かせる。
そして右足の蹴りを、庵遠の頭に叩き込んだ。
「ぐっ…!?」
庵遠はつぐみとの間合いを取ると同時に、伸ばした爪で繭のように自身を包み、盾を造り出す。
盾はつぐみの拳撃を受け止めたが、
「――ッ!!?」
その衝撃は盾を貫き、庵遠を打った。
「…なるほど、これが君の全力かい? 凄まじい能力だね……」
「白々しいわね。あなた、完璧な角度とタイミングで身体を動かし、私の攻撃を受け流していたじゃない」
「ふふ… 君の攻撃をまともに受けたら、いくら俺でもミンチになってしまうよ」
庵遠は笑いながら、全員を見る。
「しかし、君達全員を同時に相手にするのはさすがに厳しい。……最後の手段を使わせてもらうよ」
「最後の手段だと……?」
武が庵遠を見ながら、呟く。
庵遠は片手を空に掲げ、
「来い、セト。愛おしき我が半身よ」
セトに呼びかけた。
「セトが半身ですって!? あなた、まさか……!」
咲夜がそう叫んだのと同時に、
「フシャアアァァアアア……!!!」
セトの身体が分解される。
そして、その分解されたセトのマグネタイトが、庵遠を包み込んだ。
「な、何だ……?」
武の身体から力が抜ける。
そしてそれは武だけでなく、その場の全員に及んでいた。
「くぅっ……!」
咲夜は反閇を踏み、場を清め結界を張る。
それにより、武達の力が抜ける現象は収まった。
「何だ、今のは?」
武が咲夜に訊く。
「あたし達の生体マグネタイトが奪われたんです。悪魔ほどではありませんが、人もマグネタイトを持っていますから……」
「マグネタイトが奪われたせいで、俺達の力が抜けたって訳か。でも、どうして……」
「あれを見てください」
咲夜が、すでにマグネタイトの塊と化した庵遠を指さした。
「あれが、この島に生きる全ての生物からマグネタイトを奪い、吸収しているんですよ」
「なっ……!!?」
武が辺りを見廻す。
木々は枯れ、動物はミイラのような姿へと変わっていった。
「庵遠とセトが融合し、さらにマグネタイトを吸収する事によって… 新たな存在へと、変生するつもりなんでしょう……」
マグネタイトの塊は少しずつ巨大化してゆく。やがて、1つの完成された形へと変化した。
それはリリスから裁き手と呼ばれ、庵遠から禍々しき者と呼ばれた存在。

7つの頭に光輪を掲げ、6枚の翼を広げた真紅の竜。

そしてその竜が、ゆっくりと口を開いた。
「我は唯一神に仕えし告発者にして、全ての悪魔を統べる王――神霊『サタン』」
竜――サタンの、威厳に満ちた声が響く。
まるで、全ての世界に届くような声だった。
「今、審判の時は訪れた。だが汝等にイエス・キリストの弁護はない。唯一神の代理者たる我の裁きにより地獄へと堕ち、永劫の苦しみを受けよ……!」
今まで武達が闘ったどんな悪魔よりも、サタンには力が満ちていた。どんな魔法や科学でも破る事の出来ない、絶対の力。
「…やられたわ。やけに余裕だったから、何か隠しているとは思ってたけど……」
優春の頬を、一筋の汗が流れた。
「…もの凄い力が伝わってくるわ。あれは、この地球上に在ってはならない存在よ……」
つぐみの表情にも、焦りの色が浮かんでいる。
「それでも… 闘るしかないだろ。大丈夫だ、まだチャンスはある。あいつは――」
武が将門之刀を構え、サタンを睨み付けた。そしてその脇にケルベロスが立つ。
「…そうね。闘うしか…ないわよね」
つぐみが言う。
「…仕方ないわね。とことんやるわよ」
「ここまで来たんです。もう、何が相手でも同じですよ」
優春と咲夜も、それに続いた。
「万物よ、無へと還れ! <メギドラオン>!!」

ドゴォォオオォオオオッ!!!!

武達の身体が結界ごと吹き飛ばされ、地面を跳ねる。
「……ッ!」
つぐみは起き上がると同時に跳び、サタンの巨体に拳撃を打ち込む。
だが。
「なっ……!!?」
サタンの皮膚は、つぐみの拳撃を弾き返した。
「邪魔だ」
1枚の翼が一閃し、つぐみの身体を吹き飛ばす。
「つぐみっ!!」
つぐみの身体が地面に叩き付けられる前に、優春がその身体を受け止める。
だがその衝撃を殺し切れず、2人とも地面に打ち付けられた。
「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・南斗・北斗・三台・玉女!!」
「<ファイアブレス>!!」

ダァアアァア…ンッ……!!!

咲夜は九字で、ケルベロスは炎の息で攻撃するが、
「ぬるいわ!!」
サタンはそれを翼を盾にして防ぐ。
そして、
「天の星々よ、空を裂き地を砕け!! <アステロイドボム>!!!」
魔法を、武達に向け放った。

ドゴオォオオ…ンッ!! ドゴオォオオ…ンッ!!

上空から無数の隕石が降り注ぐ。
「きゃあぁぁあああ!!!?」

ドドドドドドドドオォォオオッ……!!!!

さらに多くの隕石が落ち、大地を吹き飛ばした。
「…終わったな」
サタンが呟く。
だが土煙が晴れると、
「――!!!?」
そこには、武達の姿。
武は刀を地面に突き刺し、島から霊気を吸い上げ新たなシールドを張っていた。
「ふぃ〜… ギリギリだったな……」
武が地面から刀を抜く。
「さぁ、まだ終わってないぞ」
そしてその切っ先を、サタンへと向けた。
「何故だ… 何故、汝等は絶対者に挑もうとする!? まるで、あの堕ちた熾天使のように!!!」
「簡単だ。お前は俺達を裁こうとしている。だがな、お前に俺達を裁く権利なんかない。例えあったとしても、俺達はそれを認めない。それに… 俺達には生きる権利がある」
「絶対なる法の力に背く気か!!」
「この世に『絶対』なんてものは無いんだよ。ナカマとナカマの『絆』以外にはな」
「認めぬ!!」
サタンが魔力を集束させる。
「唯一にして絶対の神よ、この者に終末を… ハレルヤ!」
そしてそれを、武へと放った。
「<神の裁き>――!!!!」
凄まじい力の奔流が、武に襲いかかる。
だが。
「この程度の力で… 殺せると思うな!!」
武は真正面から、それを将門之刀で受け止める。
そしてその力の奔流を粉々にし、打ち消した。
「何ッ……!!!?」
「どうした、これで終わりか?」
武はサタンを見ながら笑みを浮かべ、不可視の刃を放つ。

バアァァアアア…ンッ……!!

「ヌウゥゥウウウ……!!」
つぐみの拳撃さえ弾き飛ばしたはずのサタンの身体が、斬り裂かれた。
「…間違いないみたいね」
つぐみが言う。
優春と咲夜、ケルベロスも頷いた。
「やっぱりな。そんな事だろうと思ってたぜ」
武が、サタンに語りかける。
「何を言っている……!!」
「隠したって無駄だぞ。俺だって、デヴィルサマナーの端くれだ。お前みたいな強力な悪魔の弱点は知ってる。お前――」
そして武は、それをサタンへと言い放った。
「――実体化が、完全じゃないんだろ?」



悪魔がこの世界に実体化するには、実体を構築するための物質――マグネタイトが必要不可欠だ。
そしてその悪魔が強大であればあるほど、多くのマグネタイトが必要となる。
「この島の全ての生物から生体マグネタイトを奪っても、お前が完全に実体化するには足りなかったんだ」
サタンは答えない。
「お前はさっさと俺達を殺したかった。マグネタイト不足のせいで、力が弱まる前にな」
咲夜も、口を開く。
「あなたが完全な状態なら、最初の一撃であたし達は死んでいるはずでしたからね。あたし達はあなたのマグネタイト不足に賭けて、闘いを挑んだんですよ」
「そしてその賭けは――」
「――私達の勝ちみたいね」
優春とつぐみが笑みを浮かべる。
「諦めろ、唯一神の御使いよ。今の貴様に、我等を裁く力はない」
ケルベロスが、サタンに言った。
「…侮るな……」
サタンの声が響く。
だがその声に、以前のような力はない。
「我が力が完全でないとはいえ、人の子とその使い魔如き… 裁けぬと思うか!!!」
サタンは上空へと飛び上がったが、
「血写経典!!」
咲夜の血写経典に縛られ、地へと落下した。
「喰らいなさい!!」
「<ファイアブレス>!!」
サタンの身体を優春の<銀ナイフ>が斬り裂き、ケルベロスの炎の息が焼く。
「はぁあ!!」
さらにつぐみの拳撃が、サタンの身体に打ち込まれた。
「グアァアアアァァアアアアア!!!!」
サタンが、まるで獣のような咆哮を上げる。
その眼に映るのは、武の姿。
武はサタンに向け、力強く――

「この、人間がぁぁああああ!!!!」
「終わりだ、神霊サタン……!」

――将門之刀を、振り下ろした。



サタンの姿が、光に包まれる。
「これが、我が敗れる事が、唯一神の御意志だとでもいうのか……!!!?」
サタンの身体を構成していたマグネタイトが分解され舞い上がり、島全体に降り注ぐ。
それにより森が再生し、動物達も息を吹き返した。
「違うな。唯一神の威光に縋るだけのお前に、俺達は斃せない。それだけの事だ」
武達の最後の敵――サタンの姿が、消えてゆく。
「…忘れるな、人の子よ……! 我を滅ぼすという事は、唯一神に剣を向けたという事だ……!!」
「分かったから、もう消えろ」
武は将門之刀をもう一度振り下ろし、サタンにトドメを刺した。
「ぐぉおおあぁぁあああ……!!!!」
サタンが完全に消滅する。
そしてその断末魔は、戦いの終わりを告げた。



「終わったわね……」
「ええ、そうね……」
優春の言葉に、つぐみが答える。
「…武さん、庵遠はどうなったんですか? やっぱりサタンと一緒に……」
咲夜が武に訊く。
「いや、あいつは逃げた。斬られる寸前に、サタンから離れてな」
「えぇ!!?」
武とケルベロス以外の全員が、叫び声を上げた。
「ちょ、ちょっと武! 逃げたってどういう事よ!?」
「あぁ!? つぐみさん、武さんを放してください! 首が、首が絞まってますよ!!!」
優春と咲夜が2人がかりで、どうにかつぐみを抑える。
「し、死ぬかと思ったぞ……」
「武ぃい!」
「いや、確かに庵遠は逃げたけどな… ほら、あれを見ろ」
武が指をさした先には、三日月型のペンダント。
間違いなく、庵遠のCONPだった。
「…逃げる時に、落として行ったの?」
「あるいは… 敗北を認め、自ら置いて行ったのかも知れぬな」
優春の疑問に、ケルベロスが答えた。
「ま、とにかく……」
武はそのCONPに近付き、将門之刀を振り上げる。
このCONPがなければ、庵遠は仲魔を召喚する事も、現れた悪魔をコントロールする事も出来ない。
武は思い切り、そのペンダントに将門之刀を振り下ろした。

「これで、閉幕だ――……」




最終話>>

あとがきと呼ばれるもの・16
お、終わった……。
ようやくここまで辿り着きましたよ。
あとは、最終話だけ。
最終話は、エピローグっぽい話になると思います。
ではまた。


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