優夏SS    4月4日   
優しさと戸惑い   沙紀のいじわる?   過去の夢   破滅の予兆   晴れない闇   想いと衝動

//4月4日

―ゴォォォォ― おれの目の前には真っ赤に燃えさかる炎が広がっていた。
しかし不思議とその炎からは熱を感じることはなかった。
ここは何処だ?どうしてこんなに燃えているのか?オレはそんなことを考えながら
炎の壁の中で棒のように立っていた・・・。

女の子「助けて!誰かここから助けて!!」

突然、女の子の声が聞こえてきた。
オレは無我夢中で声のする方向へ向かっていく・・・。

誠「どこだ!どこにいる!!」

オレは燃え落ちた柱などを蹴り飛ばしながら走っていた。
やがて窓の外で倒れこんでいる女の子を見つけた。

誠「大丈夫か!」
オレは倒れている女の子を抱き上げると揺さぶってみた。
ん?!この顔は・・・優夏か?
おれの抱きかかえている女の子には優夏の面影があった・・・。 やがてその女の子がゆっくりと目を開ける・・・そして小さな口を開いてこう言った。

女の子「嬉しい・・・あなたが助けに来てくれたの?」

誠「え?・・・」

オレはこの女の子と初めて会った。
しかし、その女の子はまるでオレのことを知っているような口調で言っていたのだ。 オレは聞きたいことがあったが今はそんな場合じゃない! この女の子を助けることが先決だ!オレは出口に向かって走っていった。
不思議だ・・・きっとどこかの建物の中だとは思うのだが
オレは迷うことなく出口にたどり着いていたからだ・・・。
外には大勢のこの女の子の同級生らしい子たちが歓声を上げていた。
オレは一息つくとふと上を見上げてみた。
どうやら、燃えていたのは○○ホテルのようだな・・・オレはそんなことを考えていた。
そしてその女の子を地面に降ろしたその瞬間!!!
誠「ウッ・・・!!」
オレはたまらない不快感に襲われその場に倒れこんでしまった。
オレは薄れていく意識の中で必死に起き上がろうと思ったが身体がまったく動かない・・・。
そして、そのまま・・・オレの意識は途絶えてしまった・・・。

誠「うわっ!!」

オレはそんな声を出しながら起き上がった。
あたりを見回す・・・どう見てもオレの部屋の中だよな・・・。

誠「なんだ、夢だったのか・・・」

オレは安心感からかそのままベッドに倒れこんだ。
それにしてもあの夢は一体何だったのだろう?オレはそんなことを考えていた。
オレの両腕には夢の女の子を抱きかかえていた感触が今でも残っていた・・・。

誠「それにしても・・・優夏に似ていたよな〜・・・」

オレは天井を見上げながら呟いていた。
そして再び夢で見た光景を思い出していた・・・。
燃えさかる炎のなかに取り残されていた優夏に似た女の子。
そして外にはたくさんの女の子の同級生らしい子どもたち・・・。
火事になっていたのはホテル・・・ん?待てよ?!
オレは再び起き上がった。
沙紀は優夏の初恋の男の子が中学3年のときの修学旅行で亡くなったって言っていたよな。
もし、旅行先のホテルが火事になりたまたまその男の子がその場に居合わせたらとしたら
つじつまが合うじゃないか!じゃあ、あの女の子はやっぱり優夏か?
でも、夢の中の女の子はオレのことを知っているような口調だったよな・・・。
オレにあのくらいの年頃に知り合いがいたかな?オレはさらに考え込む・・・。
しかし考えがまとまることはなかった。明日詳しいことを沙紀に聞いてみるか・・・。
オレはそう思ってベッドに寝転んだ。
瞳を閉じるとそのまま眠ってしまった。
不思議なことにオレの腕にはまだあの女の子を抱いている感触が残っていた・・・。
     
優夏「誠。朝だよ、起きて」

優夏がオレをやさしく起こしていた。
しかし、オレは眠くて起きる気などまったくなかった。
                                         
優夏「起きてよ、誠!」

今度はさっきよりも激しくなった。
オレはもう少し眠っていたかったがこのままではなにをされるか分からないので
とりあえず瞳を開けた。

誠「なんだよ優夏。もうそんな時間か・・・?」

オレは眠い目をこすりながら起き上がる。
優夏「ううん。まだ朝の5時だよ」
誠「はあ?朝の5時だって。どうしてそんな時間に・・・」
オレの次の言葉は優夏がオレの口に手を抑えたのでさえぎられてしまった。

優夏「シーッ!静かにしてよ・・・」

オレは静かにうなずくと優夏の手を口から離した。

誠「それで、一体何の用事だよ・・・」

優夏「うん、あのね・・・」
優夏は指を組んだりほどいたりして少し恥ずかしそうにしていた。

優夏「一緒に外を歩いてくれないかな・・・?」

誠「はあ?散歩なら1人でもいいだろう?」

優夏「そんなこと言わないでよぉ〜・・・お願いだから・・・ね♪」
優夏はウインクをしながら言っていた。
なにが ね♪ だよ・・・人の睡眠を邪魔しておきながら・・・。
オレはそんなことを考えていたが目が覚めてしまったので優夏に付き合うことにした。

誠「分かったよ・・・支度をするから外で待っていてくれ」
優夏「ありがとう〜♪優しいね、誠♪」

優夏は満面の笑みを浮かべながら嬉しそうにしていた。
こんな様子を見ると 悪くはないよな と思えてしまう。

優夏「じゃあ、ロッジの外で待っているから・・・」
誠「ああ」

優夏はそう言って部屋を出て行った。
オレは身支度を整えると優夏の待つロッジの外へと向かって行った。

誠「待たせたな」

優夏「ううん、そんなことないよ。ごめんね、本当は眠っていたかったよね・・・?」

そう思っているなら声をかけるなよ・・・オレは心の中でそう思った。
しかし、その言葉を口に出す気にはなれなかった。
優夏の笑顔を壊したくなかったからだ・・・。

誠「それじゃ、行くか」
優夏「うん・・・」

オレたちはロッジを後にした。そして林道を下り始めた。

誠「目的地でもあるのか?」
優夏「え?!そんなの決めていないよ」

誠「は?それじゃどうして散歩なんか・・・」
優夏「それは・・・」

優夏はオレから顔を背ける。

優夏「誠と一緒にいたかったから・・・」

優夏は何かを言っているようだった。
しかしうつむいているので何を言っているのかさっぱり分からなかった。

誠「全然聞こえないぞ!」
優夏「聞こえなくていいの!いいじゃない、早起きは三文の得って言うでしょ!」

誠「別に関係ないだろう?!」
優夏「そんなに細かいことを気にしないの!」 誠「だって、オレは・・・!」

優夏「優夏先生の恋愛方程式その1 『しつこい男は嫌われる』 」

誠「ウグッ・・・」
オレは優夏のその言葉を聞くと黙ってしまった。
まったく・・・優夏はたまに確信をついたことを言うよな・・・。
オレはそんなことを考えていた。

優夏「あれ?どうしたの、誠?もう終わりなの?」
誠「ああ!おまえの言う通りしつこいのはオレも嫌いだからな!!」
オレはどこか投げやりなことを言っていた。
優夏「あれ、もしかして・・・怒った?」

誠「少しな・・・」
優夏「え〜、ごめんね誠。お願いだから帰ることはしないでね・・・」

優夏はオレの腕にすがりつくと潤んでいる大きな瞳でオレを見つめながら言っていた。

誠「別に帰るとまでは言っていないだろう。ただ誘われた理由を聞けなかったのが
  少し・・・イラついたけどな」

優夏「どうしても・・・聞きたい?」

誠「いや、そんなことはもうどうでもよくなった。
  言いたくなければそれでも構わない・・・」

優夏「優しいね・・・誠」

優夏はそう言うとオレの腕に自分の腕を絡ませた。

誠「お、おい!優夏・・・」

オレは突然の優夏の行動に慌ててしまった。
女の子に腕を組まれたのは初めてでどうしていいのかさっぱり分からなかったからだ・・・。
優夏はさらに体を寄せてくる・・・。

誠「そ、その・・・少し離れてくれないか?」

普通ならこういうことをされると嬉しいはずだ。
しかし、オレはあまりの恥ずかしさのためにこういうことを言ってしまった。
バカだよな・・・オレがそんなことを考えていると・・・
優夏「お願い・・・このまま、歩いて・・・」

優夏はねだるような目でオレを見ていた。
その大きな瞳からはいつの間にか涙が流れていた・・・。
オレはその顔を見ると、とても強引に離れようという気にはなれなかった。

誠「分かったから・・・泣くなよ」

優夏「え?!私・・・泣いているの?」

オレは静かにうなずく。
そして優夏は細い指先を顔に当てていた。

優夏「本当だ・・・おかしいね。どうしてだろう・・・」

優夏は笑いながら涙を拭った。
誠「大丈夫か?」
優夏「うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配させて・・・」

誠「いや・・・気にするな」

優夏「うん・・・」
優夏はオレと組んでいる腕に力を加えた。
まるでオレを放したくないように・・・オレはなんだか嬉しくなった。
いつの間にかオレたちは海沿いの道を歩いていた。
目の前にはガードレール越しに大海原が広がっている・・・。
ただ、薄闇に包まれているその海は青いとはいえなかったが
オレには表現できないような色になっている・・・。それはそれでとてもきれいだった。

優夏「誠!」

誠「何だよ、突然大きな声を出して・・・」

優夏「ほら、あそこ!!」
オレは優夏が指を指した方向を向く・・・。
そこにはちょうど朝日が昇っていたのだ・・・。

優夏「きれいねぇ・・・」

誠「ああ、本当にきれいだ・・・」

優夏「私よりも?」

誠「バ、バカ・・・そんなこと言うなよ!」

優夏「ごめんね、誠♪からかってみたの」

しかし、そういった優夏の顔は少し悲しそうに見えたのは気のせいだろうか?
                                                
オレはそう考えつつも、この幻想的な景色を見入っていた・・・。
朝日の光がそれまで薄暗かった海に光を照らしている。
ちょうど光の当たる部分はまばゆいばかりの黄金色となりまるで光の道のようだった・・・。
しかし、日が昇るにつれ光の道は細くなりいつの間にか無くなっていた。
そのかわり今度は全ての海が黄金色に光っているように見えた・・・。
確かにこの光景もきれいだが、オレはさっきまで見ていた光の道のほうが好きだった。
これからは早起きして毎日見てみようかな?オレはそんなことを考えていた・・・。

沙紀「優夏と誠くんかしら・・・?」
突然、沙紀の声が聞こえてきた。
その瞬間、優夏はバッとオレと組んでいた腕を離した。

誠「おはよう、沙紀」
沙紀「おはよう、誠くん」

オレは何気なく沙紀と挨拶を交わしたその瞬間・・・。
―ギュウウウッ― 優夏はオレの足を踏みつけていた。

誠「グッ!」

オレは痛さのあまりそんな声を出していた。

沙紀「どうしたの・・・誠くん?」

誠「いや・・・何でもない・・・」

オレはそう言いながらも優夏のほうを睨んでいた。
優夏はツンと顔を背けると・・・
優夏「こんなに朝早くからなにやっているのよぉ・・・」

沙紀「何って・・・散歩よ。優夏のほうこそこんなに朝早くから何をやっているのよ・・・?」

優夏「それは・・・誠が散歩に行くって言うから付き合っているのよ!」

誠「おい、優夏!おまえ・・・」

―ギュウウウウッッッ― 優夏はさっきよりも強くオレの足を踏みつけた。

誠「グワッ!」

オレはあまりの痛さに飛び跳ねていた。

沙紀「本当に大丈夫なの、誠くん?」

沙紀には見えていないのか・・・オレはそんなことを考えながら

誠「ああ、大丈夫だからそんなに気にするな・・・」

しばらく無言の空間が続く・・・。

沙紀「はは〜ん、なんとなく分かってきたわ・・・」

優夏「なにが分かったのよぉ・・・!」

沙紀「散歩に誘ったのは誠くんじゃなくて優夏だっていうことよ」

優夏「そんなことない!」

沙紀「じゃあ、どうして誠くんに誘われたとしても付き合ってあげるのかしら?」

優夏「それは・・・暇だからよ」

沙紀「こんなに朝早くから?」

優夏「そんなことどうでもいいでしょ!」

沙紀「はいはい・・・」

優夏「何よ、その返事は!!」

沙紀「別に気にしなくてもいいでしょ?」

優夏「う〜〜〜!!!」
優夏は悔しそうに地団太を踏んでいた。
一方の沙紀は優越感に浸っているようだった・・・。

沙紀「それにしても、朝から二人一緒で仲のよろしいこと・・・」
誠「え・・・・」

優夏「何言っているのよ沙紀!」

沙紀「ふ〜ん、じゃあ、さっきまで組んでいた腕はどう説明してくれるのかしら?」

優夏「それは・・・」

優夏は必死に何かを考えている・・・。
やめておけ、あまりにも分が悪すぎる・・・オレはそんなことを考えていた。

優夏「もう、知らない!!」

優夏はそう言って走り去ってしまった。

沙紀「あらあら・・・ちょっとからかってあげただけなのに」
ちょっとなのか?オレはそんなことを考えていた。

誠「わるいな、沙紀。オレ優夏を追いかけるよ」

沙紀「フフッ・・・本当に仲のよろしいことで」

誠「まあ・・・な」

オレはそう言って優夏を追いかけ始めた。 やがて優夏の姿が見えるとオレは全速力で駆け寄った。 そして優夏を捕まえると優夏は・・・笑っていた。
オレはその顔を見ると少し拍子抜けした・・・。

優夏「泣いていると思った?」
優夏は顔をニヤつかせながらオレに言った。
誠「そりゃあ、あんな姿を見たら・・・」

優夏「それは・・・沙紀にあそこまでからかわれて悔しかったけど
   でも、嬉しいことがあったから・・・」

誠「嬉しいこと?」

優夏「教えてほしい?」

誠「ああ」

優夏はうつむいて考え込んでいる・・・まさか、またあのパターンか?

優夏「ヒ・ミ・ツ♪」

誠「はいはい・・・別に知らなくてもいいよ」

優夏「え〜!誠、なんだか冷たいぞ〜!!」

誠「それは残念だったな、悪いけど本当に知りたくないから」

おいおい・・・嘘をつくなよ。
オレはそんなことを考えながらも必死に知りたいという好奇心を抑えていた。

優夏「なんだぁ・・・せっかく腹いせに誠をからかってあげようと思ったのに・・・」

優夏は残念そうにしていた。

誠「だいたいおまえのからかい方はパターンが決まっているからな」

優夏「え〜!そうなの〜?」 誠「ああ」

オレたちはそんなことを話しながらロッジへと帰っていった。
時計を見るとまだ6時半だ。オレは部屋に戻り再び眠ることにした。
そして、部屋の扉に手をかけた瞬間、優夏が言った。

優夏「誠。今日は自由行動の予定だからずっと眠っていてもいいよ。   
   だけど17:00にはルナビーチに集合だからちゃんと来てよね」
誠「ああ、分かったよ。17:00にルナビーチだな」

優夏「うん。おやすみ、誠」

誠「ああ、おやすみ」

オレはそう言って部屋に入った。
早速ベッドに寝転ぶとオレは瞳を閉じた。
それにしても・・・楽しかったよな。オレはそんなことを考えながら眠った・・・。
                                               
どれくらいの時間が経っただろうか?
オレはふと目を覚ますとそのまま起き上がった。
時計に目をやると 4月4日 THU 9:08となっていた。

誠「9時ちょっと過ぎか・・・」

オレはそう呟くと部屋を後にした。
リビングに向かったがそこには誰もいなかった。
もうみんな行動を開始したのだろうか?オレはそう考えながらソファーに座った。
さて、今日は沙紀に優夏の初恋の人について詳しく聞くつもりだったよな・・・。
沙紀、別荘にいるかな?オレはそう考えていた・・・。
―ピンポーン― ドアチャイムの音が鳴った。
誰だろう?オレはそんなことを考えながらロッジのドアを開けた。

沙紀「おはよう、誠くん」

誠「おはよう、沙紀・・・」

沙紀と挨拶を交わすのは今日が二回目だよな・・・オレはそんなことを考えていた。
沙紀「誠くん1人なの?」

誠「ああ。なんでも自由行動で今日はみんな行動がバラバラだと思う」

沙紀「ふーん、それで誠くんはこれからどうするの?」
誠「特に予定は決めていない・・・ただ、おまえに聞きたいことがある」

沙紀「何かしら?」
誠「とりあえず、中に入ってくれないか」

沙紀「ええ、そうさせてもらうわ」

オレと沙紀はロッジの中へ入り沙紀をリビングのソファーに座らせた。

誠「なにか飲むか?」

沙紀「コーヒーをお願いするわ。それにしても・・・意外ね」
誠「何が?」

沙紀「誠くんがここまで気をきかせるなんて・・・」

誠「あのな、いくらオレでも接客の態度くらい分かっているぞ」

沙紀「フフッ・・・ごめんなさい」
沙紀は笑っていた。オレは2人分のコーヒーを入れるとリビングに戻った。
そして沙紀に入れたコーヒーを差し出した。
沙紀「ありがとう・・・でも、ちょっと惜しいわね」
誠「え?!」

沙紀「誠くん、コーヒーを出す時はクリームとか砂糖の有無を聞くものよ」

誠「そう・・・なのか」

沙紀「まあ、普通は砂糖やクリームを入れた容器を用意するけど・・・」

誠「へー、初耳だな・・・」

沙紀「フフッ・・・誠くん、素直ねぇ・・・」

沙紀は微笑みながらコーヒーを口にしていた。

誠「あれ、沙紀。クリームとか砂糖はいらないのか?」
沙紀「私はブラックが好きだから必要ないわ」
誠「そうか・・・」

じゃあさっきまでの説明は必要ないじゃないか・・・。
オレはそんなことを思いながらも黙ってソファーに座るとコーヒーを口にした。

沙紀「それで、聞きたいことは何かしら?」

誠「優夏の初恋の人についてだけど・・・その人はもしかして、火事で亡くなったのか?」

沙紀「え?!」

―ガチャン!― 沙紀はオレの言葉を聞いた瞬間、コーヒーカップを落としていた。
オレは慌てて台所に行くと台ふきを持ってきてこぼれたコーヒーを拭いた。
誠「大丈夫か?」

沙紀「うん・・・それより、ごめんなさい・・・」

誠「いや、気にするな」

オレはこぼれたコーヒーをふき取るとコーヒーカップを持って台所へ戻った。
そして再びコーヒーを入れて持ってきた。

沙紀「本当にごめんなさい・・・」

沙紀はそう言ってコーヒーを受け取った。
そして一口飲んでカップを下ろすとオレに言った。

沙紀「その通りよ・・・その男の子は火事で亡くなったの」
誠「そうか・・・」

沙紀「でも、どうして分かったの誠くん?」
誠「いや、ただの勘だ・・・。それがたまたま当たっただけだ」 沙紀「そうなの・・・」

誠「なあ、その時のことを詳しく聞かせてくれないか?」

沙紀「ええ・・・そうね、どこから話そうかしら・・・」

沙紀は下をむいて考え込んでいた。

沙紀「私たちが中学三年生の修学旅行のときにその子が亡くなったことは話したわよね?」

誠「ああ・・・」
沙紀「その修学旅行のときにねたまたま宿泊先のホテルの本館で家事があったの。
火元は3階の給湯室だった・・・」

誠「その男の子は本館に泊まっていたのか?」

沙紀「ううん。彼も私たちと同じ別館に泊まっていたの。
   本館に泊まっていたのは優夏たちの班だった。
   逃げ遅れた優夏たちの班は上階にも下階も炎にはさまれて身動きが取れなかったの。
   私たちは助けを求めて手を振る優夏たちの姿を 祈るようにして見守るしかなかったの・・・。
その時よ。果敢にも1人の男の子が頭から水をかぶって
本館の中に入っていったの。あの男の子だった。
彼は閉じ込められている女子を次々と助け出して 最後の一人,優夏を助けたあと,ついに力尽きて倒れたの。
ほとんど酸素のない部屋を何往復もしたから
全員助けられたことのほうがむしろ奇跡だったのよ・・・。
これは後から聞いた話だけど、その男の子が死ぬ前に優夏にこう言ったらしいの。
「優夏、ずっとお前のことが好きだった・・・」そう言い残して彼は死んだのよ」
誠「そうか・・・」

そう言ったオレの額からは冷汗が流れてきた。
そして、オレはさらに核心のついた質問を沙紀にすることにした。

誠「そのホテルの名前は・・・○○ホテルか?」

沙紀「・・・!!」

沙紀は声にならない悲鳴をあげているかのようだった。
沙紀「ど、どうして・・・どうしてホテルの名前も分かったの?」

沙紀は震えていた。

誠「偶然だよ・・・」

オレも震えながら返事をしていた。

沙紀「偶然でホテルの名前まで分かるわけないじゃない!」

沙紀は悲痛な声をあげていた。しかし、今のオレは沙紀に応えている余裕がなかった・・・。
火事になっていたホテルの名前も夢と同じ。
そして、オレが夢の中で助けた女の子、そして外に出た瞬間に力尽きたことも同じ・・・。
沙紀の話であの女の子が優夏だということは分かった・・・。
じゃあ、オレが見たあの光景は、果敢にも火のなかに飛び込んだあの男の子のものなのか?
ハハ・・・そんなことあるわけないじゃないか・・・オレはさらに激しく震える・・・。

沙紀「大丈夫、誠くん?顔色がものすごく悪いわよ・・・」

誠「ああ」

オレは深呼吸をして落ち着こうとしていた。

誠「悪いな。せっかく話をしてもらったのにおまえを不安にさせてしまって・・・」

沙紀「そんなこと気にしなくていいわよ!それよりも、本当に大丈夫なの!?」

誠「ああ・・・」

オレは苦し紛れに笑いながら沙紀にそう言った。
―パッポ パッポ パッポ・・・― 鳩時計は10時を告げた。

沙紀「もう!こんな時に・・・!!」

沙紀は焦りの表情を浮かべていた。

沙紀「誠くん、私これから予定があってもう行かなくちゃいけないけど・・・
   本当に大丈夫なの?」

誠「ああ、もう大丈夫だ・・・」
沙紀「そう・・・ごめんね。本当はもっと付き添ってあげたいけど・・・」

誠「気にするな。それより早く行ったほうがいいぞ」
沙紀「うん・・・じゃあ誠くん、17:00にルナビーチで、会いましょう」

沙紀はそう告げると慌ただしくロッジを出て行った。
ロッジには再び静寂な空間が訪れた・・・。

誠「まさか、夢で見たことが現実で実際にあったとは思えないよな・・・」

オレは独り言を言いながらリビングの天井を見上げている・・・。
どうしてオレは優夏の中学時代の光景を見ることが出来たのだろう・・・?
予知夢っていうのは聞いたことがあるけど他人の過去を夢で見ることは聞いたことがない。
もしかしてオレって超能力者?なんてことはないよな・・・。
オレはなんだか考えることが嫌になってきた。
                                           
誠「気晴らしに外に出てみるか」
オレはそう言ってロッジを後にした。
オレは林道を下り海沿いの道を歩き島中のあちこちを歩いていた。
どこへ行っているのだろう?オレは自分自身でも分からなかった。
ただ、足の動く方向に身を任せて進んでいる。まるで何かに導かれているかのように・・・。
いつの間にかオレの目の前には薄暗い林が広がっていた。
オレはさらにその奥へ進んでいく・・・おいおい、帰り道は分かるのか?

しかしオレの足は止まらない・・・いや、オレ自身が止めたくなかったのだ・・・。
やがて石畳の階段が見えてきた。そこでようやくオレは立ち止まった。

誠「ここは・・・神社かな?」

オレは石畳の階段の頂上に見える鳥居を見てそう思った。
すると再びオレの足は意思を持ったように動き始めた。
そして頂上まで上るとそこには古びた社が建っていた・・・。
オレはそのまま社の方へと進んでいく。 そして賽銭箱の前に来るとオレの足は止まった。
オレはふと上を見上げる・・・。その社は建ってはいるものの
天井はほこりまみれで賽銭箱にもほこりがかぶっていた。

誠「この様子じゃあまりお参りには来ていないみたいだな・・・」

オレはそんなことを呟いていた。
そしてオレが何気なく時計に目をやったその瞬間!オレは驚いてしまった。
時間が・・・表示されていなかったからだ。
電池交換は済ませたばかりだよな・・・オレはそう考えながらも時計を叩いたりしていた。
ボタンを押しても何の反応も示さない、壊れたのか?オレはそう考えていた。
ゾクッ!オレはなんだか急に寒気を感じてきた。
ふと冷静になるとこの場所は昼間なのにどこか薄暗くて空気が冷たい・・・。 木々に覆われていて太陽の光が差し込まないせいもあるだろうが何となく気味が悪かった。 しかしオレの身体はなぜか動かなかった。いや、動かせないのだ。
まるでオレをこの場に留めているかのようだった・・・。
―ヒュウゥゥゥー― オレの顔に風が当たった。
それは顔の横からではなく顔の正面からだった。
オレは社の中を注意深く見てみる。そこには一筋の光が見えた。

誠「どこかに抜けるのか?」

そう考えた瞬間、オレの足は動き出した。
そして導かれるままに社の中に入るとそこには小さな抜け穴があった。
オレはためらうことなくその穴に入り反対側に出た。
そこは断崖絶壁にそびえ立つ小さな足場だった。オレの目下には荒波が打ち上がっていた。
落ちたら一貫の終わりだな・・・オレはそんなことを考えていた。
オレはこんなところに長居は無用とばかりに穴に入り社の中に戻った。
そして社のなかに足を踏み入れたその瞬間!!!
―チリ〜ン・・・― どこからともなく鈴の音が聞こえてきた。
ゾクッ!!オレの全身をたまらない悪寒が走る・・・。
この音は・・・この音は・・・!!!オレは恐る恐る音のするほうへ向かった。
誠「嘘だろう・・・」
なんとオレの足下には1日に海に捨てたはずのあの鈴が落ちていたのだ。
オレは振るえながらその鈴に手を伸ばした・・・。
そしてその冷たい銀色の鈴に触れたその瞬間!!!

誠「グワッ!!!・・・」

オレはそんな声をあげるとオレの意識は遠のいていった・・・。
優夏「行かないで!お願いだから行かないで!!」

突然、優夏の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
これは・・・夢なのか?現実なのか?オレはそんなことを考えていた・・・。

優夏「・・・失いたくないの!もう無くしたくないのよ!」
優夏は何を無くしたくないのだろう・・・?
オレにはさっぱり分からなかった。
どうやらこれは夢のようだ・・・オレは暗闇の中でそんなことを考えていた・・・。
オレはただ暗闇の中でただよっているようだった・・・。
―ピカッ― 突然、一筋の閃光が暗闇を照らした。
それはまるでオレが見たあの光の道のようだった。
オレはその光の道を歩いている・・・そしてその先には優夏がいた。
!!!オレは驚愕してしまった。
優夏が立っている場所はそびえ立つ断崖絶壁のなかにあるあの足場だったからだ。
そしてオレがそのことに気付いた瞬間・・・何気なく時計に目をやった。
そして、オレはまた驚いた・・・。さっきまで表示されていなかった時計が
4月6日 SAT 6:53 時計にはそう表示されていからだ・・・。
4月6日?今日は4月4日だろう?!オレがそんな事を考えていると・・・
―コロンコロンコロン・・・― 突然、崖の上から小さな石が転げてきた。
その数は次第に増えていき8個目の石がオレの前を転がったその瞬間!!
―ゴォォォォォッ― 大地がうなりあたり一面が激しく揺れた。
地震だ・・・それも相当大きいぞ!オレがそう考えていると・・・
―ミシミシミシッ― 社が崩れ落ちようとしていた。
マズイ!このままじゃ下敷きになってしまう!!
どうする?出口を早く見つけないと・・・オレはそう考えて
出口を探そうと優夏から視線をそらしたその瞬間!!!

優夏「キャァァァァ!!」

優夏が悲鳴をあげると同時に崖の下へと落ちていった・・・。
誠「優夏〜〜〜!!!」

オレは声の出る限り叫んだが 優夏は風に舞う花びらのように何の抵抗もなく崖下へと落ちていった・・・。

―ブツン!― ブレーカーが落ちたかのようにオレの周りは再び暗闇に包まれた。

誠「何だ!いまの光景は・・・?!」

オレは震えながら叫んでいた。
―ヌルッ― オレは両手に嫌な感触を感じた。
そして両手を上げてみるとオレの手のひらは真っ赤な血が付着していた・・・。

誠「ま、まさか・・・」

オレは手を置いていた場所を注意深く見てみた・・・。
そこには・・・冷たくなった優夏の亡骸が転がっていたのだ・・・。

誠「優夏〜〜〜!!!」
オレは大声で泣きながら優夏の亡骸を抱きしめた。
あのときオレが出口のことなど考えずに優夏を助けていれば オレがもっとしっかりしていれば・・・オレはそんなことを考えれば考えるほど
胸が苦しくなってくる・・・。
オレはあのとき助かることだけを考えていた・・・優夏のことなど考えていなかったのだ。
オレは優夏を強く抱きしめながらさらに激しく泣いた・・・。
皮肉なものだ・・・優夏はかつて勇敢な男の子によって命を救われた。
そしてその男の子に似ているらしいオレが優夏を殺した・・・。
あの男の子は優夏を助けるために命を捨てたのに
オレは自分を助けるために優夏の命を捨てたのだ・・・。
こんな最低な人間と勇敢なあの少年がオレと似ているはずないだろう・・・。
オレはそんなことを考えながら優夏の亡骸を抱きしめただ泣いているだけだった・・・。

ハッ!・・・オレの目の前には古びた天井が広がっていた。
どうやらオレは社の中で倒れていたようだ・・・。オレは立ち上がるとほこりを払った。
そして、オレは思い出したかのように時計を見てみた。

誠「嘘だろう・・・」

時計に時間は表示されていなかった。
オレが見た夢の中では4月6日と表示されていたのに・・・。
オレは頭をかきむしりながら考えた。
しかし考えてもさっぱり分からない・・・。
とにかく、4月6日の6時53分に地震が起こりこの神社は倒壊する。
つまり優夏をこの神社に近づけなければ問題ないはずだ。

誠「そしてこの鈴も持たなければ大丈夫だ・・・」

オレはそう言って鈴を拾うと社の外に出て再び社を振り返る。

誠「どうやらオレはこの夢を見るために導かれたみたいだな・・・」
オレはそう呟いていた。
今見た絶望的な未来は絶対にあってはならないことだ。
命を賭けて助けてくれたあの男の子のためにも優夏を亡くすわけにはいかない!
オレには迷いがなくなった。何が何でも絶対に命を賭けて優夏を守る!!
オレはそう決意して鈴を力強く握り締めた。そしてそのまま神社を後にした・・・。
そして鳥居を出たその瞬間!―ピッ― 小さな電子音が突然鳴った。
オレはあたりを見回すが何も無かった。
誠「気のせいか・・・」

オレはそう呟いた。
オレが気を失ってからどれくらい経ったのだろう?
オレは何気なく時計に目をやったその瞬間、オレは言葉を失った・・・。
なんと、さっきまで壊れていたと思っていた時計がちゃんと時間を表示していたからだ。

誠「確かにあの時は時間を表示していなかったよな・・・」

オレには再び寒気が走った・・・。
あの神社のなかに入ると時がおかしくなるのだろうか?
オレはさっきまでの時間が表示されなかったこと、
夢で見たら4月6日に時が進んでいた事を思い出した。

誠「まさかな・・・」

オレはそう言って再び鳥居をくぐった。
そして時計に目をやる。
4月4日 THU 16:27 となっていた。

誠「ほらな・・・やっぱり偶然だよな・・・」

オレはそう呟くと神社を後にした。
そして、時間はいつの間にか16:30となっていた。
オレは優夏の17:00にルナビーチに集合と言う言葉を思い出し
オレはルナビーチに向かうことにした・・・。
                                             
誠「こんにちは」

オレはそう言ってルナビーチの中に入った。

いづみ「あら、いらっしゃい、誠くん」

くるみ「いらっしゃい、お兄ちゃん♪」

2人はキッチンで何かの作業をしているようだ・・・。

いづみ「誠くん・・・大丈夫?顔色があんまりよくないわよ・・・」

くるみ「あ、本当だ。顔が青いよお兄ちゃん・・・」
くるみは心配そうに見ていた。

誠「気のせいですよ」

オレは笑みを浮かべながら答えた。
いづみさんとくるみは少し疑いの眼差しでオレを見ていたが
やがて笑みを浮かべるとそのまま作業に戻っていた。

いづみ「誠くん、着いた早々頼んで悪いけどこれを外に持っていってくれる?」

誠「はい、分かりました」

オレは素直に返事をすると肉や野菜の乗った皿を いづみさんの指示通りの場所まで持っていった。
そこには鉄板やコンロなどの道具が置かれていた・・・。
どうやらバーベキューをするようだな。オレはそんなことを考えていた。
そしてルナビーチに戻ろうとすると億彦と遙に会った。

億彦「やあ、石原。ずいぶんと早い到着だねぇ」

誠「ああ、確かにそうだな・・・」
オレは軽く流すように返事をした。
億彦「大丈夫かい石原?なんだかいつもの君らしくないな・・・」
誠「そうか?気のせいだと思うぞ」
そう言ってオレはその場を立ち去ろうとする。
すると突然、遙が口を開いた。

遙「誠・・・本当に変だよ?」

誠「おい、遙までそんなこと言うのか!!」

オレはさっきから顔色が悪いだの少し様子がおかしいなどと言われて
あまりのしつこさに少し腹が立ってしまい思わず怒鳴ってしまった。

億彦「おい石原!何があったか知らないけど人に当たるのはやめたまえ!!」

クッ・・・オレは何かを言い返したいところだが
億彦の言っていることは正しかったので黙っていることにした。

誠「悪かった・・・。怒鳴ったりして悪かったな遙・・・」

遙「気にしないで、誠・・・」

遙は静かに言った。そしてオレはそのままその場を立ち去った・・・。
それにしても・・・オレの様子がそんなにおかしいか?
オレはルナビーチの店内に入ると鏡を見つめていた・・・。
特に・・・変わっていないよな・・・?
オレはそう考えながらイスに座った。
そしてしばらく考え込んでいると・・・

いづみ「誠くん、全員集ったからそろそろ外に行きましょうか?」

誠「はい、今行きます・・・」

オレは立ち上がるとそのまま外へと向かって行った。
いつの間にか優夏と沙紀もきていて鉄板の上には肉や野菜が焼かれていた。

いづみ「それじゃ、全員そろったところで乾杯しましょうか?
    乾杯の音頭は・・・優夏ちゃんが取ってくれるかしら?」

優夏「え?!私ですか・・・」

みんなの視線が優夏に集る。
優夏「う〜ん、それじゃあ私たちの新しい出会いに乾杯♪」


みんなはわいわいと騒ぎながらバーベキューを食べていた。
しかし、オレはなんとなく心が重くて盛り上がれる気分にはなれなかった・・・。
オレはただボーッとジュージューと音をたてている鉄板を眺めていた・・・。

沙紀「誠くん・・・大丈夫?」

オレの様子を見ていた沙紀が心配そうにオレに声をかけてきた。

沙紀「やっぱり・・・朝のことがまだ残っているのかしら・・・?」

誠「いや、そんなことはない・・・ただ、どうしても盛り上がれる気分にはなれない・・・」
沙紀「ちょっと場所を移動する?」

誠「ああ・・・そうするか」
沙紀「ちょっと待っていてね・・・」

沙紀はそう言うと、いづみさんに何かを伝えていた。
オレはふと優夏のほうに目を向けると、優夏は酔っ払っていた・・・。
気楽だよな・・・オレはそんなことを考えていた。

沙紀「お待たせ。それじゃ行きましょうか?」

誠「ああ・・・」

オレは沙紀に連れられて岩場の影へと歩いて行った・・・。
やがてみんなから遠ざかるとオレは腰をおろした。沙紀もオレのとなりに腰をおろす。

沙紀「誠くん?たぶん、悩み事を抱え込んでいるからそうなっていると思うの・・・。
たまには人に相談するのも大切なことよ。私でよかったら話してくれないかしら?」

誠「・・・・・・・・・」

オレは少し考えた。
沙紀になら話してもいいだろう・・・だが信じてもらえるだろうか?
しかし、ここまで気遣ってもらっておきながら黙っているのも悪いだろう・・・。 オレはそう考えると口を開いた。

誠「ああ・・・話すよ。ただ、信じてもらえないだろうけどな・・・」

沙紀「そんな事言ってみないと分からないでしょ?」

誠「ああ・・・そうだよな・・・・」

オレはフーッと息を吐き出してから話し始めた。

誠「オレはここのところ毎晩、夢を見ていてなその夢の内容が
あまりにも絶望的で悲しい夢だ・・・」

沙紀「絶望的で悲しい夢・・・?」

誠「ああ・・・4月6日に、優夏が死ぬ夢だ・・・」

沙紀「え?!」

沙紀は驚いた表情でオレを見ていた。

沙紀「そうなの・・・」

沙紀は言葉に迷っていた。まあ無理も無い話だが・・・。

誠「それとな、今日の朝も火事のことについて当てただろう?」

沙紀「うん・・・」

誠「あれも・・・夢で見た光景だ」

沙紀「本当・・・なの?」
誠「ああ。ためしにいくつ夢で見た光景を話すな」
オレは火事の起こった時刻、中学時代の優夏の髪型、オレが見た先生らしき人の顔
など覚えている限りのことを言った・・・。

沙紀「全部・・・正解よ・・・」

沙紀はさらに驚いた表情でオレを見た。
オレは話を続ける・・・。

誠「それに、プールの時に優夏が溺れた事も、昨日の夜に優夏に木の枝が落ちてくる事も
全部オレには分かっていた・・・。それは夢じゃなくて
まるで・・・時の進んだ世界を見ているようだった・・・」

沙紀「・・・・・・・・・」

沙紀は言葉を失った。
その視線はまるでオレのことを特別視しているような目だった・・・。

沙紀「じゃあ、これから先のことも分かるの・・・?」

誠「いや・・・4月6日に優夏が死ぬこと以外は分かっていない・・・」

沙紀「そうなの・・・。 でも、まるで誠くんが見ているものって優夏を守るために見ているみたいね」

誠「え・・・・」

オレは沙紀の言葉を聞くと驚いてしまった。

沙紀「だって、誠くんが見ている予知みたいなことは全て優夏が関わっているでしょう?」

誠「・・・・・・・・・」

オレは考え込んでしまった。
沙紀の言う通りオレが見てきたものは全て優夏に関係する事だ・・・。
もしかしたら、沙紀の言う通りオレは優夏を守るために
この奇妙な出来事を体験しているのだろうか・・・?
沙紀「ごめんなさい・・・深く考えさせてしまって。
   でも、あくまでも私の推測だから・・・」

誠「いや、謝らなくてもいいよ・・・」
  
オレは沙紀に言った。
沙紀はドキッとしたようにオレを見ている・・・。
誠「ただな・・・オレの胸の引っ掛かりはこれじゃないような気がする・・・」

沙紀「え?!」

沙紀はオレのほうに目を向ける・・・。
誠「ただ・・・オレにはそれがなんだか分からない・・・。
だから悩んでいるのかもしれないな・・・」

オレは苦し紛れに笑いながら沙紀に言った。

沙紀「そうなの・・・」
沙紀は静かに呟いた・・・。

誠「そういうわけだ。予知まがいの話は返事に困るだろうし
  オレの悩みの種が分からないことには返事のしようが無いからな・・・」

沙紀「そ、そんなこと・・・」

沙紀は必死で言葉を探していた。嬉しいな・・・オレはそう考えた。

誠「聞いてくれてありがとう。おまえの言った通り少しは楽になった・・・」

オレはそう言って立ち上がるとみんなとは反対側のほうへ進み始めた。

沙紀「誠くん・・・その、ごめんね、せっかく言ってくれたのに力になれなくて・・・」

誠「気にするな。オレがおまえの立場になっても多分何も言えないからな。
  悪いけどみんなには先にロッジに帰ったと伝えておいてくれないか?」

沙紀「うん・・・・分かったわ。
   その・・・今日はいい夢を見ることができるといいね・・・」

誠「ああ、本当にその通りだよ・・・。たまには夢を見ないで眠りたいな・・・」

オレは笑いながら言っていた。

誠「おやすみ、沙紀」

沙紀「おやすみない、誠くん・・・」

オレは沙紀に別れを告げるとそのままロッジへと帰っていった。
そしてロッジに到着して自分の部屋に入るとそのままベッドに寝転んだ・・・。

誠「今日くらいは・・・夢を見ずに眠りたいよな・・・」

オレはそう呟いて瞳を閉じた。
そしてそのまま・・・眠ってしまった・・・。
                                        
―ピピピピッ ピピピピッ― 突然、時計のアラームが鳴った。
オレは慌てて起き上がるとアラームを解除した。

誠「アラームなんかセットしたか・・・?」

オレはそんな事を考えていた。
ふと時計に目をやる。 4月4日 THU 23:05 となっていた。

誠「まだこんな時間か・・・」

オレはそう呟くと再び眠ろうとする・・・。
しかしオレの目は覚めてしまいなかなか眠れなかった・・・。
誠「外に出るか・・・」

オレはそう言ってロッジの外へと出て行った・・・。
林道を歩いているとふと、空を見上げた。
そこには・・・満天の星空が広がっていた。
輝きの群・・・星屑の嵐・・・その小さな光の一粒一粒がオレの目に入ってくる・・・。
オレはこの星空を見ると心が洗われるような感じになった。 しばらくこの星空に見とれていると・・・
優夏「あれ、誠?」

突然、優夏が声をかけてきた。
優夏「何やっているの?」
誠「眠れないから歩いていた・・・。おまえこそこんな時間になにをやって・・・」
優夏「うわぁ〜・・・きれいな星空〜♪」
優夏の突然の声にオレの話は中断された。
まあ、この星空を見れば仕方ないか・・・オレはそう考えながら再び空を見上げた。

誠「きれいだよな・・・」

優夏「うん・・・」

オレと優夏はしばらく星空を見上げていた。
そうだ!オレはある事を思い出しゴロンと地面に横になった。
優夏「何やっているの・・・誠?」

優夏がおかしいものを見る目でオレを見ていた。

誠「オレな、小さい時からこうやって星を見てきた・・・」
優夏「ふ〜ん、そういえば私も寝転がって見ていたかな・・・」

優夏は思い出すように何かを考えていた。

誠「優夏もやってみろよ」

優夏「え〜!せっかく温泉に入ったばかりなのに〜」

誠「温泉?」

優夏「うん、このまえ肝試しをやった墓地の近くに温泉があることを
   いづみさんに聞いたの。気持ちよかったよ」

誠「そうか・・・温泉か・・・」

オレは星空を見ながらそう言った。

優夏「惜しいね誠。もう少し早く起きていれば私と一緒に行けたのに・・・」

誠「え?」 優夏「・・・・・・・・・」

誠「・・・・・・・・・」

無言の空間が流れる・・・。

優夏「ちょっと、勘違いしないでよ!誠と一緒に入りたかったなんて思ってないからね!」

誠「バカ!オレだってそんな事思うわけ無いだろうが!」

オレと優夏はツン!と顔を背けた。 そんな状態でまた無言の空間が続く・・・。

誠「それで・・・どうする?」

優夏「何が?」

優夏が恥ずかしながら振り返って返事をした。
誠「寝ながら星空を見上げるのか?」

優夏「う〜ん、どうしようかなぁ・・・?」

優夏は突然、流し目を使ってオレのほうを見た。
なんだか嫌な予感がする・・・オレがそう考えていると・・・

優夏「寝転んでほしい?」

誠「ベ、別にそう思っているわけ無いだろう!

ただ、こうして見るほうが広く見渡せるから薦めているだけだ・・・」

優夏「そう、それじゃあ・・・」

優夏はそう言ってしゃがみ込んだ。寝転ぶのか?オレはドキドキしながら優夏を見ている。
しかしオレと目が合うと優夏は顔をニヤつかせて言った。

優夏「この石を拾いたかったから、しゃがんだだけ〜」
優夏は舌を出すと笑いながら立ち上がった。

優夏「んもう!誠ったら、ドキドキした顔で私を見ちゃって・・・もうカワイイッ!!」

カーッ・・・オレはあまりの恥ずかしさにガバッと起き上がってしまった。
優夏は相変わらず大声を出して笑っていた・・・。

誠「そんなに笑うなよ!!」

優夏「だって・・・誠の顔がおかしくて・・・。
   笑いをこらえようとしてもこらえきれなくて・・・」
優夏はそう言ってさらに笑う。
どこが笑いをこらえて、だ!思いっきり笑っているじゃないか・・・!
オレはそう考えながらズンズンと林道を上っていく。
優夏はオレの様子を見るとすぐさまオレに走り寄った。

優夏「ごめんね、誠。お願いだから一人にしないで・・・」

優夏はそう言って後ろから抱いてきた・・・。
オレは再びドキドキしてきた。

誠「わ、分かったから・・・その、少し離れてくれよ・・・」

オレはまたしても恥ずかしさのあまりそんなことを口走っていた。
優夏はクスクス笑いながら抱いていた。

優夏「いいじゃない♪誠だって本当は嬉しいでしょ?」
誠「それは、そうだけど・・・」

優夏はその言葉を聞くと朝のときのように腕を組んできた。
風呂上りのせいだろうか?優夏の身体は温かく石鹸の香りやシャンプーの甘い匂いがする。
オレはいつもと違う優夏の印象に少しドキドキしてきた・・・。

優夏「ゆっくり・・・帰ろうね・・・」

優夏は静かに言うとそのままオレに身体を寄せてきた・・・。
仕方ない・・・優夏の言う通りにするか・・・。
などと言いつつも本当は優夏とこうやって歩けて嬉しいと思っていた。
そして、改めて優夏を失いたくない、守りたい!!と思った・・・。
優夏の言う通り歩幅はとてもせまくロッジまでとても遠く感じられた。

優夏「なくしたものが戻ってくるのは、嬉しいなぁ・・・」

なくしたもの・・・もしかして初恋のあの男の子の事か!!
オレは少しムカッとした。今はオレといるのにどうしてあの子の話が・・・!
オレはそう考えながら優夏と歩いていた。

優夏「あの時を思い出すなぁ・・・」

クッ!オレはその言葉を聞いた瞬間、たまらない嫌悪感に襲われ優夏を突き放した。 優夏は突然オレが離れた事によってバランスを崩しその場に倒れこんだ・・・。
優夏「ちょっと、痛いじゃない!どうして突き放すのよ!!
   せっかく誠が喜ぶと思ってこうして腕を組んでいたのに・・・」

優夏のその言葉を聞くとしだいにオレのなかにはどす黒いものが生まれてきた。
オレは優夏をキッ!と睨んで言った。

誠「ふざけるなよ!!どうしておまえはオレといる時に初恋の奴の話をする!!   おまえの目の前にいるのは石原誠じゃなくて初恋の奴の幻影なのか!!!」

優夏「違うよ・・・そんなつもりで初恋の人を話したつもりは無いよぉ・・・」

優夏は必死に訴えているようだった。
しかし、いまのオレにはそんな言葉はただの言い訳にしか聞こえなかった・・・。

誠「違うだって!じゃあ、どこが違うのか言ってみろ!!!」

優夏「それは・・・」

優夏は黙ってしまった・・・。
結局は図星だったのだろう!オレはそう考えた。

誠「分かった・・・もうどうでもいい・・・」

オレはそう言って優夏に背を向けた。

誠「何だよ・・・それ・・・ふざけるなよ・・・」

オレはそれだけ言うとさっさとその場を去った。

優夏「誠ぉ・・・」

後ろでは優夏がオレを呼んでいた。
しかし、オレは振り返るつもりはない。いや、優夏に言ってやる言葉などない!!
オレはそんな事を考えていた。
だいたいオレに死んだ人間を重ねるなよ・・・!!
オレがあの初恋の人に似ている?勘違いもいいところだ!
オレはおまえを夢の中で殺した、だけどあの少年はおまえを生かした。
誠「クッ!」

オレは道に落ちていた石を蹴飛ばしながらロッジへと戻っていった。
そして部屋に戻るとフトンのなかにくるまった。
もうこのまま眠りたい・・・優夏の顔など見たくもない!!
オレはそんな事を考えながら瞳を閉じた。
まるでスイッチが切れたかのようにオレの意識は落ちた・・・。        

4月5日へつづく





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